開発60年超、夢の未来は近づいた? 超電導リニアのブレークスルー

有料記事科学とみらい

鈴木智之 竹野内崇宏 編集委員・佐々木英輔
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 山梨県を東西に走る42・8キロの山梨リニア実験線では、リニア中央新幹線の開業に向けた走行試験が続いている。1日あたりの平均走行距離は、北海道の知床半島から、鹿児島県桜島までの直線距離よりも長い2千キロほどに及ぶ。

 開通すれば、東京と名古屋を時速500キロ、最速40分で結ぶ。白地に青の線が入った車体は見慣れた東海道新幹線のようだが、前面にはカメラ用の小さな窓があるだけ。運転士がおらず、離れた指令室からコントロールする自動運転の乗り物らしい「顔つき」だ。

 記者は昨年10月、最新の「L0系改良型試験車」の先頭車に試乗した。

 待合室のようなホームから、磁界を遮る構造の入り口を通って車両に乗った。駅というよりは、空港の雰囲気に近い。車内には青緑の座席が左右2列ずつ並んでいた。東海道新幹線よりひとまわり狭いものの、内装はほぼ営業車だ。

 列車は滑るように走り出し、モニターに表示された速度がぐんぐん上がっていった。

 開発が始まって半世紀以上、着工から8年あまりが過ぎたリニア中央新幹線。静岡県内で着手できないなど工事は思うように進まず、2027年に予定していた開業は厳しい状況になっている。そもそもどんな仕組みなのか。どんな課題を抱えているのか。3回にわたり、「夢の乗り物」の現在地に迫る。

中学生だった記者が再試乗 乗り心地の変化は?

 「間もなく浮上走行に切り替わります」

 車内放送のあと、時速150キロを超えたところで、ゴムタイヤのゴロゴロ音がなくなった。浮上の瞬間だ。

 出発からおよそ1分で、東海道新幹線の最高速度を超える時速300キロに。3分かからずに時速500キロに到達した。この加速性能の高さがリニアの特徴なのだという。

 トンネルばかりで景色はあまり見えないが、窓の外の光跡や揺れ、そして「ゴー」という音から、速さが実感できた。約2分で減速に入り、わずかなショックとともに着地。8分足らずで約40キロを走破した。

 浮上といっても強い磁力に支えられているので、ふわふわした動きはない。東海道新幹線と比べると上下左右にガタガタ、ドンドンと揺れるのを感じた。駅弁を食べたり、パソコンで仕事をしたりするのは少し難しいかもしれない。

 それでも、記者の一人が中学生だった03年に試乗した旧型試験車に比べると落ち着いていて、不安は感じなかった。「先頭車なので乗り心地はシビア。改善を続けていく」と案内役の社員は話した。

 国鉄で磁気浮上式のリニアモーターカーの研究開発が始まったのは、1962年。東海道新幹線が開業する2年前で、レールと車輪の摩擦力で進む鉄道のスピードの限界を見越してのことだった。山梨実験線での試験開始は97年。リニアは半世紀以上にわたり、「夢の乗り物」であり続けてきた。

 ただ、基本的な開発はすでに終わり、現在の走行試験は開業に向けた改良が中心という。国土交通省の技術評価委員会は2005年に「実用化の基盤技術が確立」、17年に「営業線に必要な技術開発は完了」との評価をくだしている。

 1999年からリニアに携わってきたJR東海山梨実験センターの山口昌人担当部長は「当時と比べても、すごく進歩した。自信を持っておすすめできる」と言う。一方、技術者としては「これで百点かというと、決して百点ではなく、もっといいものにしたいという思いが強い。開業は通過点で、技術にゴールはない」と語る。

「当初は国鉄内でも反対の声」

 リニア中央新幹線で採用されている技術は「超電導リニア」と呼ばれる。強い磁力を得て車両を10センチ浮かせられるのが強みの国産技術だ。2015年には最高時速603キロを記録した。

 「超電導」とは、電気抵抗がゼロの状態をいう。車両のコイルをマイナス269度の超低温に冷やすことで実現し、大きな電流を長時間、閉じ込めて強い電磁石にする。医療現場のMRI(磁気共鳴断層撮影)でも超電導は使われている。

 ドイツの技術を導入して02年に開業した中国・上海のリニア(営業の最高時速430キロ)は超電導ではない電磁石を使ったもので、浮上は1センチほどにとどまる。

 浮上幅が小さいほうが効率はいいものの、欧州に比べて軟らかい地盤が多く地震国の日本では不安がある。そこで、強い磁力による大きな浮上と高速走行を目指した。

 ただ、技術的なハードルは高かった。

 国鉄職員として初期から開発…

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