「議論の場ではございません」赤字路線問題、JRと自治体なお平行線

西本秀
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 地域公共交通の再編に向けた関連法が4月に成立してから初となる広島、岡山両県とJR西日本国土交通省による会合が10日、広島市内で開かれた。焦点は乗客減少に悩む芸備線。関連法に基づく協議会が設けられる可能性をにらみながら、沿線自治体とJR西の議論は平行線が続いた。西本秀

 「法成立というタイミングでの開催だが、芸備線のあり方についての議論の場ではございません」

 会合の冒頭、広島県の杉山亮一・地域政策局長が念を押した。

 議題はあくまで芸備線の利用促進のためのヒアリング。JR西が望む区間の存廃問題は協議の対象外――。そんな自治体側の立場を鮮明にしたかたちだ。

 JR西側は会合で、都市部を走る区間も含め芸備線の全区間が赤字だとするデータを自治体に示した。

 同社の飯田稔督・地域共生部次長は会合後、記者団に「地域のお役に立ててない。より良くするには、どうすればよいのか。一日でも早く議論したい」と強調した。

 国土交通省の田口芳郎・鉄道事業課長も「芸備線の乗客が減少し、大変厳しい状況だ。事業者と自治体が向き合った対話が必要だ」と話した。

 それぞれが意識している「法」とは、改正地域公共交通活性化再生法のことだ。平行線をたどる鉄道事業者と地元の話し合いに、国が関与していく姿勢を示す意味合いがある。

 中国地方では、山あいを走る芸備線がJR西の経営上、最も「非効率」な区間を抱えている。法が新たに定めた「再構築協議会」の設置の第1号になるのではないかとの懸念が沿線自治体側には広がる。

 自治体側が協議入りを拒む背景には、JR西の「経営の論理」が優先されて廃線が決まり、その後のバス転換などでも、地元に負担を押し付けられかねないとの疑念がある。

 一方、コロナ禍が直撃したJR西の経営は、今年3月期決算では885億円の黒字に持ち直している。沿線自治体からは「全体で黒字なら、ローカル線を含めて支えるのが、国鉄から民営化したときの議論の前提だったはずだ」との不満もくすぶる。

 これに対し、JR西側は「ローカル線は急に芽生えた問題ではない。少子高齢化や過疎化など長い背景がある」(蔵原潮・中国統括本部長)と反論。将来の人口減を見据え、余力のあるうちに転換を模索すべきだと主張する。

 互いに譲らないが、芸備線の厳しい現実はある。自治体幹部からは着地点を探る声もささやかれ始めた。

 「地域も必ずしも鉄道維持にこだわっているわけではない。バスに転換しても、また赤字なら切り捨てられないか。本当に『持続可能』な地域公共交通を実現できるよう、JRと国の責任を明確にしてほしい」

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 JR西日本は昨年4月、コロナ禍前の2019年度の実績を元に、輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)が2千人未満の17路線30区間の収支を公表した。いずれも赤字運営で「大量輸送という観点で鉄道の特性が十分に発揮できていない」とし、沿線自治体に議論を呼びかけた。

 そのうち芸備線を含む10路線21区間が中国地方を通る。輸送密度が最も少なかったのは、広島県北東部の芸備線の東城―備後落合の11人で、次いで島根県と広島県を結ぶ木次線の出雲横田―備後落合(37人)だった。岡山県では広島県とつながる芸備線の備中神代―東城(81人)、鳥取県では岡山県と結ぶ因美線の東津山―智頭(179人)、山口県では島根県とつながる山陰線の益田―長門市(271人)が少なかった。

 中国地方知事会は昨年5月、ローカル線の維持・存続を図るよう国に求める要望を採択。一方で国の有識者会議は7月、見直し論議に入る条件として「輸送密度1千人未満」などを提言。19年度実績に当てはめると、中国地方では姫新線、福塩線、山口線、小野田線、美祢線を含む9路線19区間が想定される。

     ◇

〈改正地域公共交通活性化再生法〉赤字ローカル線などの地域公共交通のあり方を関係者が連携して「再構築」することを目指し、4月21日に成立。今秋にも施行される。事業者や自治体の要請に基づき、国が「再構築協議会」を設置。対象となるのは、1日1キロ当たりの平均利用者数(輸送密度)が1千人未満の線区となる見通し。協議会は存廃やバス転換などの方針を3年以内をめどに作成する。

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