それは誰のための議論なのか 「トランスジェンダー問題」を考える

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聞き手 田中聡子

 「トランスジェンダー」と聞いて、どんな人を想像するだろう。社会の中で圧倒的に少数であるトランスジェンダーは、今、性別で分けられたスペースの議論の中で、大きな「問題」として扱われている。英書「トランスジェンダー問題」の翻訳者・高井ゆと里さんは語る。まずトランスの人たちの「現実」を知ってほしい、と。

性別から逃れられない社会

 ――「トランスジェンダー」とはどんな人たちを指すのですか。

 「世界的に0・5~0・7%と言われ、圧倒的に数の少ないマイノリティーですが、確実に存在する人たちです。よく使われるのが、『身体の性別と心の性別が異なる』という説明です。分かりやすいですし、トランスの人は自分の身体と付き合うのが大変な面もあるので、言い当てていないわけではありません。しかし私は、『この性別で死ぬまで生きなさいという課題を背負いきれなくなった人たち』と説明しています」

 ――「課題」ですか。

 「私たちはみな生まれた時から、『男の子として生きなさい』『女の子として生きなさい』という課題を背負っています。社会が負わせるその課題に対し、『その性別では生きていけない』『つじつまが合わない』と感じているのがトランスジェンダーです。私たちは電車の中や道で知らない人を目にした時、まず『男か女か』を判断します。誰もが『男』『女』として存在させられているとも言えるでしょう。性別を元にした仕組みや制度も至る所に存在します。今の社会で、性別から逃れることはできません」

最大の困難は貧困とメンタルヘルス

 「そして、『この性別で生き…

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    武田緑
    (学校DE&Iコンサルタント)
    2023年4月19日7時34分 投稿
    【視点】

    高井ゆと里さんから発せられる、ハッとする言葉にあふれた記事でした。深く潜って考え抜いた人からしか出てこない言葉の力を感じました。 問題はトランスジェンダー当事者にではなく、マジョリティ側(に優位になっている社会)にあること。トランスジ

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2023年4月18日17時27分 投稿
    【視点】

    トランスジェンダーとは、「この性別で死ぬまで生きなさいという課題を背負いきれなくなった人たち」なのだという高井さんのご説明。バチンと頰を張られた気がしました。トランスジェンダーが抱える問題は「特殊な問題」なんかじゃない、「ありふれた問題」な

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