第21回川辺川ダムの是非で温度差、市民の思いは 豪雨被災地の人吉市長選

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 2020年の豪雨で21人の犠牲者を出した熊本県人吉市。災害を機に復活した川辺川のダム計画の是非が問題になるなか、市長選(16日告示、23日投開票)を迎える。立候補を予定する無所属の3氏はそれぞれ「容認」「反対」の立場だが、力点の置き方に温度差がある。街の復興も道半ばで、市民の受けとめも複雑だ。

 3月22日、人吉市内で、元職の田中信孝氏(75)が決起集会を開いた。田中氏は「私はかつて、川辺川ダムを白紙撤回した。その後、大学院で判断について自ら研究したが、やはり正しかったと確信している」と力を込めた。

 07年から2期8年、市長を務め、08年に川辺川ダム計画の白紙撤回を決断した。1年かけて市民と対話した上で決めた。流域最大の自治体が方針転換した影響は大きく、蒲島郁夫知事によるダム中止の判断につながった。

 豪雨後、ふだんは水をためずに流す流水型(穴あき)のダム計画が復活すると、反対派の集会に何度も顔を出し、反対派の後押しを受けて立候補を決めた。「穴あきダムでも川は汚れる。西日本豪雨ではダムの緊急放流で亡くなった人もいる。ダムは命も環境も守らない」と主張する。

 5日後、現職の松岡隼人氏(45)=自民推薦=も決起集会を開いた。県議長や流域の首長らが出席した。県議長は松岡氏の国、県とのパイプを強調。首長はダムの必要性を訴えた。「容認」の立場の松岡氏はダム問題については多くを語らず、中心市街地の復興などを述べた。

 集会では、後援会青年部長が「今回は、ダムを造るか、造らないかの選挙ではない。将来にわたって、安心して暮らせる地域にできるかどうかの選挙だ」と話した。

 草の根で支援を訴えて回るのは元衆院議員で新顔の矢上雅義氏(62)だ。人吉市の隣の相良村長を務めていた01~08年、ダム反対の先頭に立っていた。

 当時の川辺川ダム計画は治水だけでなく、農業用水を確保する利水や発電も対象の多目的ダムだった。とりわけ相良村は農業用水は不要と訴えての反対だった。「当時から流水型の治水ダムを提案していた」という矢上氏は今回は「容認」だ。「ダムですべての災害は防止できず、環境への影響も否定できないことは理解している。反対の声は誠意をもって国や県に伝える」とし、災害からの街の復興を重点に据える。

 こうした「論戦」に市民の受けとめも複雑だ。

 市中心部で店を営む男性は…

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