生成AIでアーティスト失業「まだ始まり」 シカゴ大教授からの警告

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聞き手・五十嵐大介
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 シカゴ大学でコンピューター・サイエンスを教えるベン・ジャオ教授は、画像生成AI(人工知能)からアーティストの作品を守るためのソフトウェア「Glaze(グレーズ)」をつくりました。AIによるセキュリティーやプライバシーを長年研究してきたジャオ氏に、生成AIの課題を聞きました。

 ――グレーズはどういう経緯で作ったのですか。

 「私はこの数年間、AIの機械学習について、セキュリティーやプライバシー面での研究をしてきました。3年ほど前、顔認識技術によるプライバシー侵害の懸念が高まり、『Fawkes(フォークス)』というツールを開発しました。米国のベンチャー企業『クリアビューAI』などから利用者を守るためです。これらの企業は、ネット上に公開されているあなたがた個人の写真を数十億枚集め、同意を得ずに顔認識技術を開発していました。

 昨夏、このときにつくったメーリングリストに、『フォークスをアート作品の保護のために使えないか』というメールを受け取りました。当初は少し困惑したのですが、その3カ月後ぐらいから、画像生成AI『ステーブル・ディフュージョン』や『ミッドジャーニー』などの報道を目にするようになった。そこでようやく彼らの懸念がわかり、連絡を取りました」

 ――アーティストとはどんな話をしましたか。

 「(生成AI企業を訴えたアーティスト)カーラ・オルティスさんたちが主宰したイベントに行って、多くのアーティストから直接話を聞きました。いかにAIが彼らの収入や評判に影響を与えているか。いかに多くの人たちが状況を危惧しているか。彼らの話を聞いて、これは現実の問題だということだけではなく、急を要する喫緊の問題だと気づいたのです。その後、すぐにグレーズの開発を始めました」

 ――グレーズについて教えてください。

 「グレーズは、人間の目でものを見る場合と、AIが機械学習で画像を認識するときの『差』を利用しています。人間は紫外線が見えないし、超音波も聞こえませんが、犬は聞こえるのと似たような違いです。この違いはAIモデルに対する攻撃にも使われてきたため、私はこの『差』を埋める研究をしてきましたが、根本的な違いは埋めることができません。グレーズはこの違いを使っています。

 グレーズのソフトを使って画像をアップロードすると、データに修正を施します。修正された画像は肉眼ではほとんど違いがわかりませんが、AIはまったく違う画像として認識するのです。たとえば、白黒のポートレート写真を加工すると、人間にはほとんど違いがわからないものの、AIにはゴッホの油絵のような抽象画として認識されます。生成AIに『カーラの画風に似た絵をつくって』と指示しても、カーラの画風とまったく違う画像がつくられる。アーティストが自分の作品が生成AIの訓練に使われることを気にせず、ネット上で公開することができます」

 ――アーティストと話をして印象的だったことは何ですか。

 「アーティストの業界の人た…

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    辛酸なめ子
    (漫画家・コラムニスト)
    2023年4月13日16時35分 投稿
    【視点】

    美術館で精魂込めた手描きの作品を観ると、やはりAIには出せない風格やエネルギーを感じます。  でもネットや写真上などで見ると見分けがつかなくなってしまいます。  一瞬でそれらしい絵が生成されてしまうと思ったら描く気力も失せてしまう。とく

    …続きを読む
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    前田直人
    (朝日新聞デジタル事業担当補佐)
    2023年4月13日17時31分 投稿
    【視点】

    私は辛酸なめ子さんと同じ美術大学で、視覚伝達デザインの勉強をしていました。1987年入学で、卒業は92年(1年オーバーしてしまいました)。ちょうど、パソコンの登場でデスクトップパブリッシングが盛んになり始めた時期と重なります。 研究室

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