村上春樹さんが語る新作「街とその不確かな壁」 幻の作品との関係は

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構成・柏崎歓

 村上春樹さんの6年ぶりの長編小説「街とその不確かな壁」(新潮社)は、40年以上前に文芸誌に発表され、しかし単行本化されなかった中編を新たに書き直した作品だ。長年にわたって封印してきた作品を、なぜいま書き直したのか。13日の刊行を前に、村上さんが朝日新聞などの共同インタビューに応じた。

「幻の作品」との関係

  村上さんは1980年に、今回の長編とよく似たタイトルの中編「街と、その不確かな壁」を文芸誌「文学界」に発表している。初期作品「1973年のピンボール」のすぐあとに書かれたこの作品は単行本にも文庫にも収録されず、いわば「幻の作品」として一部のファンにだけ存在が知られていた。

 一方で、この作品をもとにした長編「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が85年に刊行された。壁に囲まれた街で暮らす「僕」の静かな日々と、意識の核に回路を組みこまれた「私」の冒険活劇を交互に描くこの小説は村上作品のなかでも人気が高い小説の一つだが、村上さんはこの小説についても、折に触れて「うまく書けなかった」と発言してきた。

 

 ――「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」については、「騎士団長殺し」刊行時のインタビューでも、「うまく書けなくて、自分ではもどかしかった」と言っていました。村上さんにとって、本になっていない最初の中編、そして「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」というのは、心のどこかに常に背負った、大事な宿題みたいなものだったんじゃないでしょうか。

 「そうですね。『街と、その不確かな壁』の頃はまだ、小説の書き方というものをよくわかっていなかったんです。文章を書く訓練というものができていなくて、感覚だけで書いていた」

 「『世界の終り』のときはデビューの頃よりはちゃんと書けるようになっていたけれど、それでもちょっと早すぎたんですね、あの小説を書くのは。あの頃はまだ、書けるものの範囲が限られていて、その限られたなかで小説を成立させていた」

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 ――あとがきに、今回の本を…

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    田中知之
    (音楽プロデューサー・選曲家)
    2023年4月13日8時27分 投稿
    【視点】

    全く余談かもだが、歌手の中島みゆきさんは過去の自分の作品を度々リメイクされることで有名だ。ライブで楽曲のアレンジを変えて過去曲を演奏したりすることは、まぁどのアーチストや歌手にもよくあるのだが、時に歌詞まで、しかも曲によっては複数回の変更も

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