郵便物を仕分けする手が震えていた。
クラゲに刺されたかのように顔面がしびれ、目の奥がヒリヒリした。
2019年の春だった。千葉県市川市の大関慶治さん(51)は、いつものように郵便局に出勤した1時間後、体調に異変を感じた。
「早退します」と手短に告げて、急いで職場を出た。しばらく歩くと、意識が遠のき、道ばたで倒れ込んだ。
原因は分かっていた。柔軟剤や整髪料などの香りを持続させるために使われる、マイクロカプセルなどの化学物質だ。
「気にしすぎ」 理解されず休職
最初に異変を感じたのは、10年。当時、香りが強い柔軟剤のブームが起きた。だが、大関さんはそういった香りをかぐと気持ちが悪くなったのだ。
症状は徐々に重くなり、しびれや吐き気なども出るようになった。愛用していたシャンプーも受け付けなくなった。近所で干している洗濯物から漂う匂いもダメになった。帰宅すると、衣服を全部洗濯機に放り込み、風呂場に直行した。
郵便局の上司に「香りが強い柔軟剤や整髪剤などを控えるよう周知してほしい」とかけあったが、「気にしすぎだ」と言われた。「市販品を使ってなぜ悪いのか」と責める同僚もいた。
一人だけ別の部屋で作業するようにしたが、全館空調で漂ってくるわずかな人工香料に体が反応した。職場にいられる時間がどんどん短くなっていった。
22年春に病院で「化学物質過敏症」と診断され、6月から仕事を休んだ。
「香害」のために仕事を失った大関さん。ライフワークである音楽活動でも危機に陥ります。絶望の淵に立った大関さんをみて、バンドの仲間が行動を起こします。
「もうステージに立てなくなるかも」
大関さんには、別の顔がある…
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