経営悪化の阿武隈急行 沿線自治体が経営改善策の検討会

根津弥 荒海謙一
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 福島市宮城県南部をつなぐ阿武隈急行(本社・福島県伊達市)の経営改善策を話し合う「阿武隈急行線在り方検討会」が29日、宮城県庁で始まった。度重なる災害やコロナ禍による苦境を受け、沿線自治体や有識者が経営の抜本的な見直しを進める方針だ。

 阿武隈急行線は、福島(福島市)と槻木(宮城県柴田町)を結ぶ54・9キロ。旧国鉄の丸森線を、福島、宮城両県や沿線自治体などが出資する第三セクターの「阿武隈急行」が引き継ぎ、1988年に全線開通した。ただ、2021年度の決算で10億円超の赤字を計上し、厳しい経営が続く。

 検討会には、同社に加え株主の福島交通、福島と宮城両県、沿線5市町、交通政策の専門家などが参加。両県が事務局を務め、約2年かけて経営改善策を取りまとめる予定だ。

 会議では冒頭、宮城県の大石雅邦・地域交通政策課長が「沿線市町の人口増も期待できず、設備の老朽化で維持修繕費の増加が見込まれる」と説明。「経費削減や増収策のみでは対応しきれない状況にあり、抜本的な経営改善策を講じる必要がある」と述べた。

 その後、会議は非公開で実施。宮城県によると、専門家から「沿線の学校の生徒数や、今後の統廃合の状況を踏まえて議論する必要がある」などといった意見が出たという。

 今後はまず、路線をバス高速輸送システム(BRT)などに転換するかどうかについて約1年かけて話し合う。そのうえで、線路や信号といった施設を自治体が所有し、企業が運行を担う「上下分離方式」の導入を議論する。

 検討会ではこのほか、ダイヤの合理化や車両数の見直しについても協議する。

 会合後、宮城県の大石課長は「上下分離は検討課題の一つだが、ありきではない。あらゆる可能性を検討する」と話した。

 福島県の熊田理希・生活交通課主幹は「福島市、伊達市の市街地は比較的利用者数が多い一方、県境の区間は利用が非常に低調だ。利用の少ない区間を今度どうするかが大きなテーマになる」との認識を示した。

 上下分離方式をめぐっては、福島市の木幡浩市長が23日の定例会見で、「経営責任をはっきりさせたうえで、上(運行)は民間の知恵を導入して会社が経営していくべきだ」と支持する考えを示していた。(根津弥)

     ◇

 阿武隈急行は、東日本大震災後も台風や地震でたびたび大きな被害を受けた。新型コロナによる「乗り控え」も加わり、経営状況は急速に悪化している。

 同社によると、輸送人員は95年度の約325万人がピーク。沿線の過疎化などで減少傾向だったが、2019年10月の台風19号で大きな被害を受け、復旧工事が長引いたところにコロナ禍が重なり、20年度は約157万人とピーク時の半分以下に落ち込んだ。

 台風19号の被害額は11億円に達し、21年2月と22年3月に発生した福島県沖地震でも被災。被害額はそれぞれ、約9千万円と約9億6千万円にのぼり、そのつど運休を余儀なくされた。

 21年度の輸送人員は約170万人、運輸収入は約4億3千万円で、台風19号に被災する前の250万人、7億円の水準には及ばず、低迷したままだ。

 また、同社の累積赤字は災害損失などを計上したため、21年度末で約23億7千万円。老朽車両などの更新費用を補助してきた両県と沿線自治体は、さらに「コロナ緊急支援」として、20年度からの3年間で計10億7千万円余を補助する。

 同社は、自転車ごと乗れるサイクルトレインなどを運行するほか、コロナで控えた「あぶQウォーク」などのイベントを本格的に再開するなどして集客力の向上をめざす。

 新関勝造専務はコロナ後の環境改善に期待しつつ、「在り方検討会の結論を踏まえ、経営を安定化させたい」と議論の行方を注視している。(荒海謙一)

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