ウミガメ愛して、市役所の「うみがめ課」で働く 小学生から英才教育
全国唯一とされる福岡県福津市の「うみがめ課」に、ウミガメの英才教育を受けてきた若手職員がいる。小学生でウミガメの産卵地・屋久島(鹿児島県)に山村留学し、大学では国内有数のウミガメ研究者のもとで学んだ。いま、ウミガメへの理解推進活動に奔走する。
昨年11月、市複合文化センター「カメリアステージ」であった市民向けの学習会。市うみがめ課の職員、吉野諒(りょう)さん(26)が熱っぽく語っていた。市は絶滅危惧種アカウミガメの産卵地として知られ、ウミガメ保護条例もある。吉野さんは、ウミガメは生まれた砂浜に戻って産卵するという習性を説明し、「ウミガメが産卵できる砂浜を守っていきましょう」と朗らかに呼びかけた。
吉野さんは福岡市出身。ウミガメ研究で知られる亀崎直樹教授がいる岡山理科大で学んだ。大学院の修士論文のテーマは「ウミガメ類が産卵に好む砂浜」。薩摩半島(鹿児島県)や八重山諸島(沖縄県)の砂浜をドローンなどを使って調べ、浜の奥行きや植生が産卵に関係していることを明らかにした。
保育園の頃からのカメ好きだ。園で飼われていたカメを世話したのがきっかけだった。小学2年のときの誕生日プレゼントはリクガメ。旧津屋崎町(現福津市)の砂浜を訪れ、産卵に来るウミガメを一晩中待ったこともある。「現れなかったが、満天の星だった」という。
父の勧めで小学3年のころに1年間、屋久島の山村留学制度「かめんこ留学」で現地に住んだ。世界有数のアカウミガメの産卵地。夏の夜、砂浜で卵を産み落とすのを見た。住民らが見守る中、ピンポン球ほどの大きさの卵に触れた。「こんなに小さくてやわらかいのか」と感動したことは今でも覚えている。
福津市役所への就職を決めたのは、もちろん「うみがめ課」があったからだ。旧津屋崎町時代からあり、亀崎教授も町の事業に関わったことがあった。2021年入庁。配属はうみがめ課。亀崎教授は「まじめさナンバーワン。人あたりもよく、行政マンに向いていると思った」と話す。
市内でのウミガメの産卵は15年ほど前まで毎年のように確認されたが、21年度からはゼロ。砂浜の減少や温暖化の影響などが指摘されるが、原因ははっきりしない。そもそもウミガメの産卵は太平洋側がメインで、日本海側は少ないという。吉野さんは「ウミガメにとって福津の海は厳しい環境と考えられる。ここに来てくれるカメを大事にしないといけない」と力を込める。