植物学の研究・執筆幅広く 南方熊楠賞に東京大学大学院教授の塚谷氏

勝部真一
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 博物学者の南方熊楠(みなかたくまぐす、1867~1941)の偉業をたたえ、博物学や民俗学といった分野で業績のある研究者に贈られる南方熊楠賞(和歌山県田辺市、南方熊楠顕彰会主催)。第33回の受賞者に選ばれた東京大学大学院教授(植物学)の塚谷裕一さん(58)は、研究成果や植物誌を一般に広める執筆活動にも精力的で、熊楠の姿にも通ずるものがあると評価された。

 塚谷さんは神奈川県生まれ。東京大学、同大学院で植物学を学び、総合研究大学院大学の先導科学研究科助教授などを経て、2005年から現職。21年には紫綬褒章を受章した。

 東南アジアの熱帯林をはじめとする国内外でのフィールドワークを通じて、菌根を介して完全に栄養を菌類に依存する「菌従属栄養植物」など、一つの新属、30の新種を含む44の植物の新分類群を命名。また、最先端の分子レベルの植物学の研究でも、葉の形態形成における遺伝子経路の解明において、世界をリードする研究成果を多くあげてきた。南方熊楠賞選考委員会は「これらの成果は、現代のナチュラルヒストリー(自然誌)として高く評価される業績」とした。

 受賞のコメントで、塚谷さんは高校生のころに知ったという熊楠について「分野に縛られることなく、知的好奇心の赴くまま英国の知の集積の中を存分に探索し、新アイデアを得ては次々と論文に発表。故郷に帰っては民俗学的追求を深め、新種の生物を次々と見つけた活動に深く憧れた」とした。

 「振り返ってみると、憧れに沿って活動してきた」といい、大学院生のころからは、研究と並行して文筆活動を進めてきたという。その上で、「文系と理系の乖離(かいり)への反発、ごく狭い専門性への反発は、一貫して持ち続けてきた」。受賞した者の責務として「後進の若者たちがより広い視野と広い守備範囲を保てるよう支援していく」という。

 授賞式は5月6日午後1時半から、紀南文化会館(田辺市新屋敷町)で。塚谷さんが「植物学とエッセイと…興の赴くまま」のテーマで講演する。定員200人で、参加無料。

 熊楠賞は、田辺市と南方熊楠顕彰会(当時は南方熊楠邸保存顕彰会)が1990年、熊楠没後50周年を記念して創設した。熊楠の研究対象だった民俗学的分野、博物学的分野の研究者を表彰する。1年おきに、人文分野と自然科学分野から選考し、今年は自然科学分野が対象だった。選考には朝日新聞社が協力している。(勝部真一)

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