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　本気を出せば、何でもできると思っていた。だが、簡単ではなかった。

　2011年4月6日。茨城県つくば市出身で当時、東京の大学4年だった三井俊介さんは、初めて目の当たりにした被災地の惨状を前に、立ちすくんだ。

　一帯を埋め尽くすがれきの中に、泥まみれのサッカーボールやアニメのキャラクターを描いたカードを見つけた。そこにあった生活を想像し、心が押しつぶされそうだった。

　太平洋に面した岩手県南部の陸前高田市。「被災地で困る人たちのために何かしたい」。震災発生直後から友人らとボランティア団体を立ち上げ、寄付された服を現地に送るなどした後、陸前高田に入った。

　市内には高さ17メートルを超す津波が押し寄せ、死者・行方不明者は1800人以上に上った。割り当てられたのは、海に突き出た市東部の広田地区。おもに被災状況の調査にあたった。活動の中で接する被災者のほとんどは、家族や友人を亡くしている。

　「せめて、少しでも気持ちを楽にしてもらえるように」。明るく振る舞うよう努めた。だが、被災者らの役に立てている感覚は、なかった。

　2週間ほどの滞在が終わるころ、知り合った住民の一人から、「外から来てもらって。おかげで笑って過ごせたよ」と言われた。できることがあった。そう思うと、心が少し晴れた。

　その後も月に一度、広田地区に通った。人口約3千人の漁村。あるとき、住民の一人が、「このまちはなくなるかもしれない」と話すのを聞いた。少子高齢化が進み、人口が減っているというのだ。

　「自分にしかできない役割があるのではないか」。大学を卒業した直後の12年4月、この地区に移住した。後を追って首都圏から移ってきた仲間3人とともに、住民らが必要とする事柄を聞き取って、それを形にしていった。野菜の通信販売、パソコン教室……。活動するうちに、「少しできた」と感じられるようになっていった。

　1年ほどたって、地区の住民と首都圏の大学生らとの交流事業を始めた。学生が1週間滞在して、地元の人の話を聞き、地域の課題や魅力を知る。そして、思いついたアイデアを実行してみる。若者と住民が刺激し合い、小さな「できた」が生まれた。地区の名所や暮らしを紹介する冊子を作ったり、まちの人が集まるカルタ大会を開いたりした。

　震災発生直後に三井さんが立ち上げたボランティア団体はNPO法人となり、広田地区のほかに、同県北部の岩手町にも拠点を作った。全体で15人の職員を中心に、アルバイトやボランティアを合わせて約130人が活動している。

　三井さんは広田地区の人たちに推され、市議も1期務めた。今、34歳。目指すまちは、住みたい人が、仕事や学校がないことを理由に断念することなく住めるまち、だという。「人口が減るからこそ、豊かな社会をつくる」が目標だ。

　「ここで、日本の未来の姿を探してるんです。『できた』とは、まだ言い切れないですね」（藤田大道）

東日本大震災による県内の被害状況

《人的被害》

●死者（関連死を含む）66人=日立13、北茨城10、水戸7、東海6、常陸太田3、つくば3、ひたちなか3、那珂3、鹿嶋2、行方2、古河1、結城1、龍ケ崎1、下妻1、常総1、高萩1、笠間1、牛久1、潮来1、桜川1、神栖1、鉾田1、大洗1、阿見1

●行方不明者1人=北茨城

●負傷者714人（うち重傷者34人=水戸10、日立6、つくば3、つくばみらい3、ひたちなか2、石岡1、高萩1、北茨城1、守谷1、筑西1、かすみがうら1、行方1、鉾田1、茨城1、東海1）

《住宅被害》

●全壊2637棟●半壊2万5054棟●一部損壊19万498棟●床上浸水33棟●床下浸水610棟

※2023年3月1日現在、消防庁災害対策本部発表

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　東日本大震災の発生から11日で12年になる。茨城県内では、地震や津波で24人が死亡、1人の行方が今もわからない。避難先などでその後亡くなった災害関連死も42人に上っている。壊れたり浸水したりした建物は、住宅だけで21万8千棟超に達する。

　東京電力福島第一原発事故に伴う福島県からの避難者は、今年2月1日時点で茨城県内に2499人が暮らしており、埼玉県（2322人）、東京都（2321人）を上回って全国最多となっている。

　11日は、推定で最大6・7メートルの高さの津波が押し寄せ、5人が死亡、1人が行方不明となるなどした北茨城市で、震災が起きた午後2時46分をまたいで追悼式が催される。各地の寺院で「十三回忌」の法要が営まれるほか、11日の前後に津波避難訓練を実施する自治体や、防災の催しを開く団体などもある。（福田祥史）