前向きな文脈で故郷知って 被災地出身の大学生の故郷への思い

山浦正敬
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 【埼玉】立教大学観光学部=新座キャンパス=で学ぶ小国瑞奈(みずな)さん(22)は岩手県大槌町出身で、12年前の東日本大震災の時は小学4年生だった。被災した故郷を離れて約7年。地域創生をテーマに学外活動で戻ったふるさとで見えたのは、幼少時に気づかなかった地域の魅力だった。「震災の文脈だけでなく、前向きにがんばっていることを知ってほしい。伝えたい」

 大槌町は三陸沿岸にあり、大津波に襲われた。小国さんも高台の親類宅に身を寄せるなどした後、高校への進学を機に盛岡市に引っ越した。

 4年前に入学した大学での生活はコロナ禍の拡大で一変した。オンライン講義で、学生同士の交流も途絶えた。「このまま卒業だと、思い描いた生活と違う」と、休学してインターンに挑むことにした。

 選んだテーマは地方創生。岩手県大船渡市の水産加工会社で地元の学校給食への展開を提案した。島根・隠岐に渡り、直売所で商品開発に挑んだ。

 1年前から参加するのが東京・大手町にある地域産品セレクト・ショップ「アナザー・ジャパン」だ。三菱地所と中川政七商店などが始めたもので、企画から商品の仕入れ、販売までのすべてを学生だけで担う。

 小国さんが担当するのは北海道・東北地方。商品を選ぶため、故郷を訪れたのは昨年5月だった。土地のかさ上げや区画整理などが進んでいた。「被災前とまったく違う風景で、小学校低学年の記憶を保つのが難しいくらい」

 現地で商品として選んだのはジビエ料理の缶詰と、糸で幾何学模様のししゅうをつける「刺し子」などだった。

 協力してくれた食品会社は、ジビエツーリズムで人を呼び込む活動にも挑戦する姿勢に共感した。商品はシカ肉のシチュー缶詰とジャーキー。刺し子は仮設住宅の人を元気づけようと始まったししゅう作品で、被災から立ち上がる前向きさを感じた。

 アナザー・ジャパンの企画は2カ月ごとに地域を入れ替え、小国さん担当の企画展「アナザー・ホッカイドウトウホク」は昨年10~12月だった。接客して感じた。「大槌は震災の文脈で知られているけど、うれしいような、あまりうれしくないような。もっと前向きな文脈で知ってほしい」

 町への訪問中、被災地の子どもらの学習を支援したNPO法人を訪ねた。自らもかつて通った。懐かしい「先生」らがおかえりと迎えてくれた。「ここにも帰る場所がある」

 復学した小国さんは都会での就職を目指す。まずは仕事にがんばる。機会があれば、新たな地方の魅力にも触れてみたい。

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 アナザー・ジャパンの店舗は東京・大手町のTOKYO TORCH(銭瓶町ビルディング1階)にある。4月2日まの企画展は関東地方を対象にした「アナザー・カントウ」。営業は午前10時~午後7時。問い合わせは03・6262・1375へ。(山浦正敬)

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