北陸新幹線延伸、調査費計上で沸き立つ推進派

原田達矢
[PR]

 北陸新幹線の敦賀から新大阪への延伸計画で、国土交通省が異例の調査に踏み切る新年度予算をつけた。実施中の環境影響評価(アセスメント)と並行して地下水への影響などを調べるための費用で、約12億円に上る。本来ならば計画認可後に実施する調査で、住民団体などからは「施行ありきだ」などと疑問の声が上がっている。(原田達矢)

 北陸新幹線延伸計画をめぐっては、「事業実施区域」として福井県小浜市付近から南丹市を通り、京都駅を経て松井山手駅(京田辺市)周辺に至るという大まかなルートが示されている。府内を南北に貫くルートの大半が地中深くのトンネルになる見通しだ。

 そのため、南丹市美山町や京都市の住民らが、環境破壊や地下水への影響が懸念されるとして延伸計画に反対を表明。計画の認可に必要な環境アセスメントが進んでいない。

 与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)はこれまで、2023年度初めの着工を強く要望していた。だが、昨年12月、国交省は23年度当初の着工を断念する方針を明らかにしている。新年度予算には、着工の費用が計上されていない。

 一方で、同省の新年度予算には「北陸新幹線事業推進調査費」として、12億3500万円が計上された。用地取得が難しい場所の権利関係の確認や、建設で発生する土砂の受け入れ先との事前協議、地下水の流れの調査や、駅の位置や構造を検討するための費用だという。

 環境アセスの結果を待たずにこうした調査を進める方法は、整備新幹線工事では異例だ。しかし、同省担当者は取材に対し、「推進調査はアセスメントとは別のもの。法的に問題があるとは考えていない」と説明する。

 予算計上を受け、与党PTは「工事の遅れを取り戻せる」と息巻く。国の新幹線の整備基本計画に盛り込まれている、山陰新幹線との接続可能性を探るとする新たな決議もまとめた。

     ◇

 環境アセスが終わっていないのに、従来は工事実施計画の認可後に行ってきた調査を前倒しで進めることについては、有識者らから疑問の声が上がっている。

 大阪市環境影響評価専門委員として北陸新幹線の環境アセスに関わった同志社大学小谷真理准教授(行政法)は「環境アセスメントは環境への影響を考慮し、地元の声を聞いて事業の可否を含めて検討するもの」と指摘。「今回予算を計上した調査はあくまで参考として扱うなど、位置づけをはっきりさせなければ、アセスが形骸化しかねない」と懸念を示した。さらに、新幹線の認可権限を持つ国交省が先んじて調査をすれば、事業実施ありきの印象を与えかねないとして、「地元の理解を得るためには予算の意図を説明する必要がある」と述べた。

 市民団体「北陸新幹線京都延伸を考える市民の会」も「ルートを決めていないのに、用地や河川の調査に12億円もの税金をかけるのは驚きだ」と憤る。団体は、昨年10月、計画の白紙撤回を求める署名約2万7千人分を国に提出。今年1月には府に対し、環境アセスを厳しく監視するよう求める署名1万746筆を提出した。

 環境アセスが続く南丹市の西村良平市長は2月9日の記者会見で、「地元の自然資源があるところは避けてほしいという思いは変わらない」と述べた。環境アセスと並行して別の調査が行われることについて、京都市の門川大作市長は3月7日の記者会見で「環境アセスは何よりも大事で、(調査のために)手を抜くようなことは関係者から一切出ていない。しっかり行われると確信している」と述べ、問題はないとの認識を示した。

 府の新年度予算に北陸新幹線関連の予算は含まれていない。府は、「(国交省から)調査費の説明はない」として、静観する構えだ。西脇隆俊知事は「丁寧な地元説明、環境保全の適切な対応を(国に)引き続きお願いしていく」と述べるにとどまっている。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら