水源地、カモシカの生息…… 産廃処分場計画で住民らシンポ 山都町

吉田啓
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 水源があり、周囲ではニホンカモシカの目撃が相次いでいる。そんな熊本県山都町東竹原の渓谷に、廃棄物最終処分場をつくる計画が持ち上がっている。計画に反対する地元住民らが5日、現地説明会とシンポジウムを開いた。

 処分場建設が計画されているのは阿蘇外輪山の東側で、宮崎県高千穂町にほど近い渓谷だ。熊本市の廃棄物処理業者が、用地買収した約18万6千平方メートル(東京ドーム約4個分)の土地に廃棄物の最終処分場と中間処理施設をつくる計画を示した。

 業者のホームページには、処分場では燃えがらや汚泥、家庭ごみなどを30~60年かけ200万~300万立方メートルを埋め立てる概要が示されている。遮水シートを敷いた上に廃棄物を埋め立て、集まった排水は環境基準を満たすように処理して、河川に流す。

 山都町議会の議事録によると、町長が計画を知ったのは2021年4月。その2カ月後に業者が説明に訪れたという。業者は設置に向けて、県の条例に基づき22年8月には環境影響評価(アセスメント)の手続きを始めた。

 だが、五ケ瀬川の源流にあたり、遮水シートが破れて汚水が流出した場合の水質汚染が懸念されるなどとして、宮崎県内の住民からも反対の声が上がり、業者は同年9月、いったん、手続きを取り下げた。取材に対し、業者の担当者は「今後、寄せられた意見を参考に内容を見直していく」と話し、計画そのものは継続する意向だ。

 シンポを企画した一人で、計画地の近くで林業を営む栗屋克範さん(70)は「処分場はどこかに造る必要がある。でも、ここはいけない」と話す。渓谷では水が湧き、周囲の尾根は分水嶺(ぶんすいれい)にあたるといい、汚染水が漏れた場合などの影響を心配するからだ。

 100年単位での営林に取り組んでおり、処分場建設に伴う木々の伐採の影響も心配だ。「保水や二酸化炭素の吸収など、山林の担う役割は大きい。すべての命にとって大切な水源もある場所に、処分場を造ってはいけないと思うのです」

 山都町や東竹原地区だけの問題ではない。多くの人に処分場計画を知らせ、考えて欲しいと現地説明会とシンポジウムを開いた。

 高千穂町で米作農家の収入を安定させる仕組みづくりなどに取り組む藤木哲朗さんは、渓谷での処分場造成が「水質汚染に加えて森林の伐採に伴う、大雨での五ケ瀬川の水害にもつながるのでは」との懸念を示した。

 処分場計画は報道で知ったといい「なぜ五ケ瀬川流域の住民に、業者から説明がなかったのか。腹立たしい思いだ」と話した。

 長く中学校教員を務め、山都町で自然観察会を催し続けている元町教育長の藤吉勇治さんは、町内には多くの絶滅危惧種が生息するが、年々、見られる個体数が少なくなっている現状を話した。

 渓谷の周辺では、国の特別天然記念物ニホンカモシカの目撃情報が相次いでおり、カモシカの子が保護されたこともあることから「繁殖地があることも考えられる」と述べた。

 熊本学園大の中地重晴教授は業者が示した計画について「最大で高さ80メートルまで埋め立てるとなっており、ずさんすぎた」と指摘した。

 また、熊本県内にある廃棄物処分場に残されている容量は大きくなく、排出された廃棄物のうち最終処分される4割が県外に運ばれている現状を示した。

 それが、台湾積体電路製造(TSMC)の進出で変わると中地教授は示唆する。

 「今後、県内での産廃処理を考えなければならなくなる」「御船町では産廃も受け入れる、民間による大規模なごみ焼却施設の建設が計画されている。東竹原の最終処分場計画とも関連があるのでは」との見方を示した。(吉田啓)

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