処理水放出の「関係者の理解」どう進める 原発遺構化の可能性は

聞き手・福地慶太郎
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 東京電力福島第一原発事故から12年となるのを前に、小野明・福島第一廃炉推進カンパニー代表が単独取材に応じた。今春にも始める処理水の海洋放出をめぐり、漁業者と交わした「関係者の理解なしには処分しない」という約束をどう守るのか。繰り返し尋ねたが、具体的な判断方法は示さなかった。

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 ――処理水の処分をめぐっては、2015年に当時の広瀬直己社長の名前で、福島県漁連に対して「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」と文書で約束している。今後、理解を得たのかどうか、東電はどう判断するのか。

 「『理解』という言葉は非常に難しく、一人ひとりの受け止めが違う。一律にこうと決められないし、特定の指標ではかることは非常に難しい。引き続き、多くの方のご理解を深めていただけるよう取り組むことが大事と考えている」

 ――国も「関係者の理解なしには処分しない」という方針だ。理解を得たかどうか、国と東電のどちらが判断するのか。

 「1F(福島第一原発)の廃炉が続く限り理解を深めていただく活動、説明は継続すべきだと思っている」

 ――理解を得たかどうかは、国と東電の両者が判断するのか。

 「1月の関係閣僚会議で段取りが少し見えた。理解活動を進める一方で、設備をつくり、原子力規制委員会の検査も合格させることが必要だ。IAEA(国際原子力機関)の包括的な報告も含め、一つずつ段取りを国と一緒に踏んでいくことが大事だと考えている」

 ――昨年、1号機の原子炉の台座(ペデスタル)の一部でコンクリートがなくなり、鉄筋がむきだしになっているとわかった。今後の調査で耐震性が足りないとわかったら、耐震を強化する方法はあるのか。

 「きちんと調べないと、何ができるかも考えられない。(ロボットによる)ペデスタル内部の詳細な目視調査を3月末にやりたい。一方、昨年3月の福島県沖地震の後も、鉄筋には大きな変形がない。地震などで大きな問題は多分起こらないだろうと考えている」

 ――原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は昨年9月、3号機の原子炉建屋を鋼鉄の構造物で覆って水没させ、燃料デブリを取り出す方法を検討していると明らかにした。メリットとデメリット、実現可能性をどう考えているか。

 「水をためれば、作業員には(放射線を遮って被曝(ひばく)線量を減らす)遮蔽(しゃへい)の効果があり、放射性物質の飛散も防止できる。だが、原子炉建屋を覆う構造物の中にためた水はデブリに触れて汚れる。漏洩(ろうえい)防止ができるか。長期の構造物の保守も必要だ。本当にできるのか、大きな課題がある」

 ――昨夏、原発事故の避難者や帰還者、若者らが対話し、1Fの将来像を考える「1F地域塾」が始まった。東電の社員も参加している。この場をどう見る。

 「地域塾は、様々な方がざっくばらんに議論できる貴重な場だ。いまは廃炉の技術的な情報が不十分で、(将来像を)決められないが、どこかで必ず議論しなくてはいけない」

 ――塾では、原発事故の継承のため、原子炉建屋などの遺構化を求める声もある。残す場合、どんなハードルがあるか。

 「(建屋や設備は)放射性物質で汚染されているのでどう飛散を防ぐか。(時間が経って朽ちる)経年劣化に対して何ができるか。技術面の課題はそこだ。地域には『残す必要がある』という考え方も『残すと復興が進んでいるのかわからない』という声もあるだろう。いろんな意見を聞き、最終的にコンセンサスを得る活動が必要だ。その意味でも、地域塾はひとつの参考になるのではないかと期待している」(聞き手・福地慶太郎

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