諫早湾干拓、「開門せず」で決着 最高裁が上告棄却 司法判断が統一

遠藤隆史
【動画】諫早湾を閉め切った潮受け堤防=堀英治撮影
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 長崎県国営諫早湾干拓事業をめぐり、堤防排水門の開門を命じた確定判決の「無力化」を国が求めた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷(長嶺安政裁判長)は、1日付の決定で、漁業者側の上告を棄却した。漁業への悪影響は軽減されたとして無力化を認めた二審・福岡高裁判決が確定した。開門の是非をめぐっては複数の裁判が起こされ、「開門」と「開門せず」の相反する確定判決が併存していたが、司法判断は「開門せず」に統一された。長年の法廷闘争は事実上、決着した。

 第三小法廷は「上告理由にあたる憲法違反などがない」とだけ述べ、詳細な判断理由は示さなかった。

 国営の諫早湾干拓事業は、農地の確保と洪水被害の防止を目的にし、1997年に「ギロチン」と呼ばれる鋼板で湾が閉め切られた。これに対し、漁場環境が悪化したとして開門を求める漁業者と、干拓地に海水が入って塩害が起きるとして開門に反対する営農者が、それぞれ訴訟を起こしてきた。

 2010年に漁業者の請求を認めて「3年以内に5年間の開門」を国に命じる福岡高裁判決が出ると、当時の民主党政権は上告せずに確定させた。一方、自民党政権に戻ると、営農者の訴えを認めて開門を禁じる判決や決定が出て、司法判断にねじれが生じた。

 国はねじれ状況を解消するため、開門を命じた10年の確定判決の無力化を求める訴えを起こし、一審は敗訴したが、二審・福岡高裁で逆転勝訴した。

 上告審で最高裁の別の小法廷は19年9月、確定判決から長期間経って変わった事情を踏まえ、さらに審理を尽くす必要があるとして高裁判決を破棄し、審理を差し戻す判決を言い渡した。ただ、無力化という結論自体は維持する方向性を示唆した。

 高裁の差し戻し審はそれに沿う形で22年3月、改めて無力化を認めた。閉門後に漁獲量は減ったものの、現在は回復傾向にあり、漁業者への影響は軽減されているなどと指摘。事業には開門を命じるほどの違法性はなく、現時点で開門を認めることは漁業者側の権利の乱用にあたるとする判決だった。

 今回の第三小法廷が上告を退けた詳細な理由を示さなかったのは、19年の最高裁判決も踏まえ、新たに見解を出す必要はないと判断したとみられる。

 同種訴訟は他にも福岡高裁や長崎地裁で争われているが、「開門せず」に統一された今回の司法判断が踏襲されていくとみられる。遠藤隆史

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