周囲がすっぽりと夕闇に包まれた師走の午後5時。小さな飲食店が軒を連ねる盛岡市内丸の一角に、赤ちょうちんの灯がともる。
居酒屋「福寿丸」。
10人も入ればいっぱいになりそうな店内で、店主の岩城和哉さん(66)とパートナーの小野寺淳子さん(61)が、忙しそうに客に料理を提供していた。
壁には、1葉の写真と、30年前の新聞記事が貼ってある。
写真に写っているのは、漁船「福寿丸」。岩手県大船渡市三陸町で漁師をしていた父の鉄郎さん(92)と弟の史朗さんが長年、ホタテ漁などで使い続けた1・9トンの小型漁船だ。
新聞記事は、同県釜石市で撮影された人気映画「釣りバカ日誌」に、鉄郎さんと史朗さんがエキストラで出演したことを報じる内容で、はにかんだ笑顔の2人の写真が添えられている。
記事を見るたび、和哉さんの胸の中には「2人ともいい笑顔だな」という気持ちと、「申し訳なかった」という思いが交差する。
「本当なら、俺と史朗が入れ替わっていたはずだった」
和哉さんは高校卒業後、鉄郎…
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