「勝負はとてもきついものです。でも…」 棋士・中田宏樹八段を悼む
早すぎる訃報(ふほう)だった。7日、病気療養で休場中だった将棋の中田宏樹八段が58歳で亡くなった。新人で全棋士1位の勝率を挙げ、還暦も迫った今期まで順位戦B級2組に在籍した実力者。昨秋のインタビューでは、優しい人柄と棋士としての個性に触れた。
いつか中田さんにゆっくりとインタビューをしたい。将棋記者として、ずっと心の片隅に抱いていた願いだった。
寡黙で人前を好まず、謎めいた佇(たたず)まい。「将棋の純文学」と呼ばれる矢倉を武器に本筋と王道を志向する棋風。穏やかな空気を漂わせつつ、対局室で盤上を見据えると急に怖くなる視線。昔気質という言葉が浮かぶ棋士は、あらゆることが現代化された棋界にあって不思議な美しさをまとっているように思えた。
昨年9月、初の取材依頼。ところが、中田さんは携帯電話を持っておらず、メールアドレスもなし。唯一の連絡手段である研究室の電話を何度かコールすると、ある時「もしもし中田です」と声が聞こえた。
9日朝、復帰が近づく予感の中で受けた訃報に言葉を失った。 言葉を失った後、思い出したのは中田宏樹さんの言葉だった。 「将棋で勝負をして、きついものだな、と思えることはとても好きなんです」 。中田さんという棋士のことを、心を込めて伝えたいと思った。
趣旨と思いを伝えると「私で…
- 【視点】
2月8日午前10時、東京・将棋会館でB級2組順位戦の対局が始まった。 最終戦を残して、この日でB級1組への昇級者が決まる可能性がある。 勝てば昇級することになる木村一基九段の相手は、飯島栄治八段。緊張感がある対局室。 夕方の休憩時間に
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