北野新太

文化部 | 囲碁将棋担当
専門・関心分野囲碁将棋

現在の仕事・担当

囲碁将棋、特に将棋を中心に取材しています。朝日新聞が主催する名人戦、順位戦、朝日杯だけでなく、棋界動向の全てを追っています。記事を書くだけでなく、写真や動画の撮影、youtubeでの対局中継業務、中継時の出演なども行っています。

バックグラウンド

囲碁将棋を担当していますが、自分は専門記者ではありません。新聞記者になって22年間の担当歴はプロ野球、サッカー、五輪競技、政治、事件、災害、文芸、映画、音楽など多岐に渡ります。将棋取材は最も長く12年くらい続けていますが、素人だと思って取材しています。

仕事で大切にしていること

中学時代、沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』という著作を読み、人を取材することに憧れて新聞記者を志すようになりました。不思議なことに、今でも当時と考えはあまり変わっていません。自分なりの言葉で人について書く、ということを続けています。

著作

  • 『等身の棋士』(ミシマ社、2017年)
  • 『透明の棋士』(ミシマ社、2015年)

論文・論考

  • 『藤井聡太 肯定の天才』(『文藝春秋』2024年1月号)
  • 『座して死を待たない』(『Sports Graphic Number』24年2月15号)

手がけた代表的なコンテンツ

タイムライン

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端っこ、また端っこ…芝野虎丸名人が究極の選択「勇気がいりました」

 相手の石を殺すことにおいては屈指の技術を持つ〝殺し屋〟芝野虎丸名人(24)には、別の特別な能力がある。計量化しがたい中央の模様を価値判断する鋭い嗅覚(きゅうかく)もその一つ。第49期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第5局では、挑戦者の一力遼棋聖(27)が広げた模様に突入せず、囲わせて勝つ鮮やかな手並みを披露した。  棋士は大別すれば「実利派」と「厚み派」に分かれる。囲碁は最終的にそれぞれの陣地の広さで勝負する。両派は囲うプロセスが異なる。実利派は序盤から陣地を稼いで先行逃げ切りを図る。厚み派は手厚い石組みを好み、後から相手の弱点を突きながら陣地を増やし、捲(まく)る。  名人は厚み派だ。挑戦者は実利派だから途中まで互いにわが道をゆく。名人には確かな陣地が少ない代わりに、まとまれば大地になる模様が発生しやすい。模様に突入する挑戦者との攻防は本シリーズでも見られた。だが第5局は逆の展開になった。名人は実利で先行し、挑戦者は厚みで対抗した。名人は模様に突入せず、囲わせにいった。  図1 挑戦者の黒石は左辺から中央にかけて重点的に配置され、大模様を形成している。名人の次の一手は、模様の発展を妨げに中央に白石を放つものと見られた。しかし名人の手が向かったのは白1、3。中央からほど遠い、盤から転げ落ちそうな端っこだった。  「うーん。どうなんですかねえ」。立会人の山下敬吾九段が首をひねった。陣地の境界線を定める終盤のヨセとしては大きい。しかしまだ中盤である。盤上の石数の少ない中央に先行すべきではないか。  挑戦者は黒4以下8と、着々と模様を固めていく。もう名人は模様に入っていくだろうという検討陣の予想は、またも裏切られた。まるで意地になっているかのように、白9と再び端っこに向かった。  図2 名人は挑戦者の▲を見て上辺の折衝を切り上げ、ようやく白1と中央に向かった。挑戦者は白の中央進出を止めるべく黒2と蓋(ふた)をしにいく。黒10まで目的を果たしたが、模様の境界線はAやBなど傷だらけ。周囲に白石が来ると支えきれない。それを横目に名人は白11と、今度は上辺の隙間から顔を出す。傷を抱える黒は、白の進出をすっきり止められない。すでに勝つのは容易ではないという。  「名人には黒模様は大きくまとまらないという見立てがあった」と解説の孫喆(そんまこと)七段。茫漠(ぼうばく)とした大海のような中央は、隅や辺に比べ着手後の見通しが立ちにくい。多くの棋士が苦手の分野を、名人は得意にしていた。優れた中央感覚で黒模様を恐れることはないと判断。陣地として確かな計算ができる盤端のヨセを先行したのだ。  図3 図2の黒2では別法があった。黒1、白2を交換してから、黒3以下あえて白に中央を突き抜かせる。中央経営は破綻(はたん)しても、図2で千切り取られた▲を救出しながら白石4個をもぎ取り、形勢は不明という。  挑戦者の頭にはこの図も浮かんだが、採らなかった。図1で白に徹底して辺で稼がれると、模様を極大化して対抗しなければならない思いに寄ってしまいがちだという。名人の作戦には心理的効用も加味されていた。  戦わずして負けるのを棋士は極度に嫌う。負ければ終わりのカド番で名人は戦わず、囲い合いを選んだ。「勇気がいりました」と名人。この度胸も強さの一つである。 ■「碁盤斬り」「極悪女王」の白石監督が見た名人戦  囲碁を主題とした今年の時代劇映画「碁盤斬り」の白石和彌監督(49)が対局室に入り、名人と棋聖に熱視線を送った。女子プロレスの青春群像を描いたNetflixドラマ「極悪女王」も話題の監督。初めて足を踏み入れた現場で抱いた印象とは。  映画はウソです。「失敗したらもう一度」と言ってから撮れる世界。今、侍同士の斬り合いを見たことのある人はいません。でも、名人戦の対局室は現実の空間で、こちらが武者震いするような時間でした。  ふたりは本当に怖かった。対局直前、瞑想(めいそう)して背筋を伸ばして胸を張る姿だけで伝わってくるものがありました。途中、一力さんが僕をにらんで。見慣れない奴(やつ)がいるな、と。僕、キュ~ッとしましたよ、ホント。  映画はウソですが、何で撮るかと言うなら「記憶」です。また囲碁映画を撮るかは分かりませんが、体験した記憶をどう自分の中に取り込めるか。囲碁も人と人が対峙(たいじ)するもの。これからの自分に何かの影響を与えてくれる時間だったと思います。  棋士は清く正しく姿勢良く、表情に感情を出さずに戦う。でも、きっと心の中には「極悪女王」のレスラーのように殴り合っている部分もあると思うんです。コイツをやってやる、という空気感は実際の現場だからこそ伝わるものがありました。  祖父が囲碁愛好家で、僕も小さい頃に打ってみましたけど、祖父は教えるのがヘタすぎて全然上達しなくて(笑)。北海道から上京して独り暮らしを始めてからも詰碁の本で勉強して。最近は「碁盤斬り」の監督が碁盤も持ってないのは駄目でしょと思って、三寸盤でNHK杯の碁を並べたりしています。  囲碁で面白いのは、まるで交渉のように思える時です。将棋やチェスのように相手の王様を殺しにいくのではなく、譲ったり委ねたりしながら、いつの間にか戦いが始まっている。「本当は殺す気だったのか?」とでも言うように。  映画監督になって十数年が経ち、今の自分が中間地点にいるのか終わりに近づいているのかは分かりません。今年は「碁盤斬り」に「極悪女王」があり、来月1日には新作「十一人の賊軍」も公開されます。集大成であり、新しい出発点にもなるかもしれない年です。  「孤狼の血」のようなヤクザ映画を撮り続けても多分外さないと思います。でも、生きるなら新しいチャレンジをしたい。囲碁と同じで定石から外れた時にこそ新しいものは生まれると思っています。

3日前
端っこ、また端っこ…芝野虎丸名人が究極の選択「勇気がいりました」

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【詳報】芝野名人が2勝目、ミスを突いて我慢比べ制す 囲碁名人戦

 3連覇を目指す「虎」が踏みとどまるか、世界一の「力」が決めるか――。芝野虎丸名人(24)に一力遼棋聖(27)が挑戦している第49期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第5局が23日、神奈川県箱根町のホテル花月園で前日から打ち継がれ、対局2日目が始まった。  初の名人位奪取を狙う挑戦者が3勝1敗とし、残り1勝として迎えた第5局。後のない名人にとっては、もう勝つしかない背水の一局でもある。1日目は両者とも仕掛けることなく、戦いがないまま囲い合ってヨセ勝負となりそうな展開に。93手目を黒番の一力挑戦者が封じた。1日目の消費時間は名人4時間1分、挑戦者3時間30分。持ち時間は各8時間。23日午前9時に封じ手を開封して再開され、同日夜までに終局する見込みだ。  立会人は山下敬吾九段、新聞解説は孫喆七段、記録係は豊田裕仁二段と張心澄初段、YouTube解説は鈴木伸二八段。朝日新聞デジタルでは七番勝負の模様をタイムラインで徹底詳報する。 ■名人の中央感覚[総括]  大石殺しの腕力においては棋界屈指の名人が、刀を抜かずヨセ合いをめざした。挑戦者が中央に大模様を張っても意に介さない。見た目ほどまとまらないと見切ったのだ。大石殺しとはまた別の名人の強みを存分に見せつけた。  地味ながらハイライトは図の白1、3だろう。盤上を俯瞰(ふかん)すれば、中央の制空権は黒が握り、一帯は黒っぽい模様になっている。隅と辺の陣地は白の名人のほうが多く、挑戦者はいかに中央の模様を大きくまとめるかが焦点になっていた。ところが名人の石は中央に向かわない。  新聞解説の孫喆(そん・まこと)七段によると、中央のヨセはもっとも見極めがたく、感覚に拠(よ)るところが大きい。名人はその感覚が優れているという。「中央はそうまとまらない」と見切り、陣地の多寡(たか)を確実に数値化できる辺のヨセを優先したのだ。  こうなると、挑戦者いよいよ中央の囲いに専念しなければならない。黒4と境界線のラインを太くし、名人の応手を待つ。白7は黒Aか8か、名人は挑戦者に応手を問い返した。黒8を見た名人の手はまたしても中央に向かわず、今度は上辺の白9へと向かった。  白7に黒Aと受ければ、模様の下端に侵入の隙間はなくなる。しかし黒8ならば白Bから削る手段が残る。模様の上端にも隙間があり、ならば模様の削減は急がずともよい。その判断が、確実に陣地を増やす白9に向かわせた。「これで間に合っている」という判断だ。  こうなると、挑戦者はいよいよ中央を極大化しなければいけなくなる。目いっぱい陣地を広げようとしたのが無理につながったようだ。挑戦者の腰が伸びきったところで名人がついに刀を抜き、介錯(かいしゃく)した。  「本局の名人は受けの碁で、挑戦者に自由にさせながら形勢に後れをとらない、それでいて読みを入れるべきところで力を出して決めました。囲碁の理想的な勝ち方といっていいでしょう」。名人は解説者絶賛の名局で、決着を第6局に持ち越した。 ■名人、孫七段と〝和解〟[17:45]  感想戦終了後、芝野名人がYouTube「囲碁将棋TV」に出演。鈴木伸二八段と本局について振り返った後、お待ちかね?の新聞解説・孫喆七段が登場し、控室は拍手に包まれた。  実は孫喆七段、開幕前の特集記事(8月26日付朝刊)で七番勝負のスコア予想という大役を務めている。その際に「予想ですか? 言いにくいですけど、一力さんの4勝1敗と予想します。今の一力さんが何局も負けるとは、ちょっと想像できません」と率直なコメントをしたことが囲碁界で静かな話題を呼んだ経緯がある。  2勝目を挙げ、予想を覆したかっこうとなった芝野名人は笑顔で対面した。  主なやりとりは以下の通り。  孫「し、失礼します。本当におめでとうございます。素晴らしい碁で、きっと勝つと思っていました」  芝「ありがとうございます。どうしたんですか?」  孫「いやいやいや。6局目も見られるので、みなさん喜んでいると思います」  様子を見ていた大出記者「孫さんの戦前の予想は4勝1敗で挑戦者と……。だからザンゲに……」  芝「あ! それ自分、読みましたよ」  孫「ホント、誰がそんなこと言ったんですかね? 僕、言いましたっけ? 悪い記者がいるんです(笑)」  芝「もちろんです」  孫「4勝1敗はわりと攻めて……」  芝「攻めてますよね(笑)」  孫「ホントは僕、そんなタイプじゃないんですけど、盛り上がるんじゃないかと……」  芝「ええ、分かりました(笑)」  和解を果たし、笑顔でお開きとなった。  孫七段の名誉のために明かすと、同じ記事中にこのようなコメントもしている。  「挑戦者が一力さんでなければ、芝野さんを推したいくらいです。僕の予想を覆す可能性は十分にあります」  「芝野さんは相手の言い分も認めて全局的なバランスを保つところがある。一力さんにとってはやりにくい部分があるでしょう」  つまり「予想を覆す可能性」という予想を的中させたとも言えるのだ。  囲碁でも将棋でもタイトル戦のスコア予想を同業者である棋士が行う時は、フルセット決着とするケースがほとんどだ。当然ながら全て本音ではない。  棋士としての視点を持ち、責任と勇気を持って「4勝1敗」と語った孫七段に心から賛辞を送りたい。 ■芝野名人が勝利、2勝3敗に[16:20]  名人戦七番勝負第5局は、芝野虎丸名人が、初の名人位奪取を狙う挑戦者の一力遼棋聖に白番中押し勝ちした。  戦いが起きずに我慢比べの碁になったが、挑戦者がバランスを崩し、名人がミスを的確にとがめた。これで芝野名人が2勝、一力棋聖が3勝になった。  第6局は10月30、31日に千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」で打たれる。 ■おやつ[15:00]  名人優位の対局が続く中、おやつの時間になった。  両棋士が選んだのは「フルーツ盛り合わせ」。地元の八百屋で仕入れたというリンゴやブドウ、メロンなど12種類の果物が並ぶ。打ちながらも食べやすいよう、全て一口サイズに切ってある。飲み物は芝野名人が桃ジュース、一力棋聖がアイスコーヒーにした。 ■局面が急迫[14:55]  1日目からまったく戦いがなかった本局で、突然白兵戦は始まった。中央の模様をめいっぱい囲おうとする挑戦者に対し、名人は白1以下黒4まで、国境線に難癖をつけてから白5から9と出切り、こちらの国境線を破りにいった。挑戦者は白9の切りに見向きもせず、黒10と白の退路を断って丸取りを狙う。  これはどうなっているのか。「黒10は挑戦者の勝負手ですが、名人がやらかさなければ白のゴールは近い」と新聞解説の孫喆七段。もうヨセ勝負とはならない可能性が高い。 ■張心澄初段が登場[14:20]  午後2時20分、記録係を務める張心澄初段(18)がYouTube解説に出演した。  昼食休憩明け、一力挑戦者が48分考慮した時間帯について、鈴木伸二八段から「眠くならないですか?」と単刀直入に尋ねられると「昼ご飯食べた後は……(なります)」と正直な笑顔を見せていた。  張初段の父は張栩九段、母は小林泉美七段、妹は張心治初段、祖父は小林光一名誉名人、祖母は故・小林禮子七段。2020年に入段した。 ■対局が再開[13:00]  1時間の昼食休憩を経て対局再開。挑戦者はすぐに手を下さず、考え込んでいる。 ■観光客はコロナ禍前の水準に  記者(30)は2019年から2年間、横浜総局で勤務していた。全国でも有数の観光地である箱根町には何度も取材や観光で行くことがあったが、20年のコロナ禍では観光客が激減し、苦境が続いていた。今回久しぶりに箱根を訪れると、箱根湯本駅の周辺には多くの観光客の姿が。ようやくコロナ禍前の観光地に戻ったのか、箱根町観光協会に聞いてみた。  同町観光協会の佐藤守専務理事によると、10月段階で今年の観光客数はのべ約2千万人を超える見込み。20年よりも500万人ほど増え、コロナ禍前の19年と同じぐらいの数だという。「早めの予約をしてくれる客が多く、客単価が以前よりも良い。売り上げは如実に上がっている」と分析する。  とくに、受け入れ人数の多い大きなホテルや旅館に人が集まっているという。町内には約350の宿泊施設があるが、観光客が増えてきたこともあり、どこも人手不足に悩まされていることが課題という。  観光客のうち、約20%が外国人観光客。芦ノ湖から見える富士山や浴衣での温泉巡りをお目当てに、アメリカやフランス、オーストラリアの人が年々増加しているという。東京や横浜にも近く、箱根までの区間は「ゴールデンコース」とよばれているそう。  囲碁名人戦が開かれているホテル花月園でも、外国人観光客や修学旅行生が訪れていた。同ホテルの足立守男総支配人は「24時間無料で開放している家族風呂が好評。ようやく活気が戻ってきたと感じている」と話した。 ■名人が逆転か[12:00]  午前9時すぎの挑戦者の封じ手開封からは名人の着手が疑問視され、検討陣からは挑戦者乗りの声が多かったが、午前11時をすぎると一転して名人乗りの声が強まった。  図は名人が上辺の折衝を中断して下辺白1に転じた場面。挑戦者は長考して黒2とふたをして、中央をまとめにいったが、ふたの仕方がどうだったか。白3以下黒10まで、先手で黒石1個を持っていかれ、白地が膨らんだ。さらに白13の切りが入って、一帯の黒の封鎖線は断点だらけでかなり気持ちが悪い。直接の手段がなくても、一帯に一つ白石が加われば手段が成立する事態となると、白の手段の選択肢は飛躍的に豊かになる。  豪剣を提げながら抜かず、ひたすら受け身をとってきた名人。しかし挑戦者がリスク承知で目いっぱいにがんばれば、どこかで抜くことになる。中央の白13の切りからは、そんなにおいがする。  挑戦者は白13を見てそのまま打たず、1時間の昼食休憩に入った。 ■冷たい麺[12:00]  一進一退の攻防が続く中、お昼ごはんの時間になった。対局の舞台になっているホテル花月園が用意した。2人が選んだ勝負めしは……。  芝野名人が選んだのは、冷たい天ぷらうどん。緑色のうどんは抹茶を練り込んだコシのある茶うどんだ。エビは神奈川県小田原市で、野菜は静岡県三島市でとれたものを使っているという。  一方の一力棋聖は、冷たい天ぷらそば。この名人戦のために作った特別メニューだという。スルスルと食べやすいそばは、名人戦でも毎回のように注文される人気メニューだ。  同ホテルの足立守男総支配人は「両棋士いったりきたりの白熱した戦いと聞いています。最後まで接戦になりそうな予感ですね。応援しています」と話していた。 ■「箱根のディープな魅力を」  すすき草原の入り口前で信号待ちをしていると、道向かいで竹馬に乗っている男性を見つけた。小雨の中、なぜ竹馬に?  男性は、囲碁名人戦が開かれているホテル花月園の近くの箱根ビジターセンターで働いているという「一般財団法人自然公園財団箱根支部」の築紫(つくし)宗太さん。公園になっている高原ふれあい広場で、年に1回のイベント「仙石原高原マーケット」に参加し、竹馬やバランスボードなどの遊び体験のブースを開いているという。「マーケットでおいしいものを食べてもらうためにも、おなかをすかせて欲しいと思ってやってます」と笑う。  マーケットは2022年に始まり、今年で3回目。発起人の鈴木教仁さんによると、コロナ禍で減っていた観光客が徐々に戻りつつある中、地域活性化ともっと箱根のディープな店を知ってもらいたいという思いから始めたという。地元のパンや甘酒、ワインなど15店舗が出店。「本当は教えたくないくらい、地元の人に人気の店ばかりなんです」と鈴木さん。土日が営業中の店が多いため、あえて平日の水曜日にマーケットを開催しているそう。  マーケットは午後2時まで。売り切れ次第で終了になる店舗もある。 ■仙石原はススキが見頃に  囲碁名人戦が開かれているホテル花月園(神奈川県箱根町)から車で5分ほど。仙石原すすき草原でススキが見頃を迎えている。23日はあいにく小雨がぱらついていたが、外国人を中心に多くの観光客が写真を撮って楽しんでいた。  すすき草原は「かながわの景勝(けいしょう)50選」に選ばれている秋の箱根の観光スポットの一つ。整備された約700メートルの遊歩道の両脇に、のびのびと育ったススキがゆらゆらと揺れている。町観光協会によると、11月中ごろまで楽しめるという。  オーストラリアからきたという家族連れは、温泉を目当てに箱根に訪れた。ホテルの人に教えてもらい、ススキを見に来たという。男性は「温泉も良かったが、ここもすばらしいね。気温もちょうど良い」と話した。 ■予想外の進行[10:00]  封じ手の黒1から黒11までは、プロなら一瞬で見える進行だが、封じ手開封からこの間、約50分。大半が名人の考慮時間で占められた。そして白12の転戦。黒15まで交換して、先手を取って白16にまわった。「うーん」。検討陣は名人の予想外の手に声が出ない。  白16では白3のツギが予想されていた。続いて黒A、白B、黒C、白D、黒Eまで換わって白Fに手を戻す。そして次の挑戦者の一手が「真の封じ手」になると考えられていた。しかし名人は白3の実利の大につかず、ここを先手で切り上げて白16にまわったのだ。  上辺の手抜きの代償はばかにならない。白は上辺の陣地構築をめざしていたのに、黒から打てば白地変じて黒地になりかねない。検討陣にとって名人の立ち回りは予想外だったが、名人の形勢判断に対する評価は非常に高い。だから「うーん」とことばが出ないのだ。 ■鈴木伸二八段の解説始まる[10:00]  午前10時になり、YouTube「囲碁将棋TV」での鈴木伸二八段の解説が始まった。最初のゲストは本局立会人で、20日の棋聖戦挑戦者決定トーナメント準決勝で芝野名人から大逆転勝利を挙げ、井山裕太王座との挑戦者決定変則三番勝負に進出した山下敬吾九段だ。  封じ手開封などを担った再開時の対局室について「2日目になると緊張感は1日目より上がります。見られると対局者は気になるものなので、目が合わないようにしました」。名人戦、棋聖戦、本因坊戦で数多くの2日制対局を経験している大棋士らしい言葉だった。  1日目の展開は意外だったようだ。「戦いが全くなく、ここからも戦いが起きそうにない碁形。最近、この二人の碁では見たことがないです。読みというより判断力の勝負。戦わないで負けると後で何を言われるか分からない。お互いに勇気が要る碁を打っています」 ■真の封じ手はこの先[09:04]  午前9時、両対局者が前日までの手順を並べ直し、山下敬吾九段が封じ手を開封した。黒1は検討陣の予想の一手。白A、黒B、白C、黒D、白Eと先手をとる意図だ。  問題は白Eの次の黒の手だ。中央の模様をまとめにいくと思われるが、どこが最善なのか、非常に難しい。黒1の予想は簡単だが、真の封じ手はどこか。 ■中央の模様、どうなる[1日目振り返り]  午後5時10分、名人が放った白1を見て、挑戦者は考慮時間21分を投じ、同31分に次の一手を封じた。検討陣の封じ手候補は本命が黒A、対抗が黒B。どちらの手も上辺の折衝は先手で適当に切り上げ、目下最大の懸案である中央に手をまわす展開だ。焦点は上辺ではない。どれほどの陣地になるかなお見定めがたい中央の模様だ。  1日目は戦いらしい戦いはどこにも起こらなかった。図を見れば一目瞭然だろう。主導したのは名人だ。挑戦者が模様をどんどん広げるのに、いっこうに入らない。入った石は攻めの標的になり、攻められるのは必定。いかに大過なくしのぐかが勝負になるが、名人は突入せずとも陣取り合戦に分があると見ているようだ。  「中央の模様の広さは測りがたく、判断が非常に難しい。芝野さんはこういう碁も得意としています。現在の形勢は互角。一力さんを相手に、何もせず勝てば名局ですが、現在の形勢は互角です」と新聞解説の孫喆(そん・まこと)七段。

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【詳報】芝野名人が2勝目、ミスを突いて我慢比べ制す 囲碁名人戦

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【詳報】重厚な展開、一力挑戦者が封じ手 囲碁名人戦第5局

 3連覇を目指す「虎」が踏みとどまるか、世界一の「力」が決めるか――。芝野虎丸名人(24)に一力遼棋聖(27)が挑戦している第49期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第5局が22日、神奈川県箱根町のホテル花月園で始まった。  初の名人位奪取を狙う挑戦者が3勝1敗とし、残り1勝として迎えた第5局。後のない名人にとっては、もう勝つしかない背水の一局となる。  対局は2日制で打たれ、持ち時間は各8時間。22日午前9時に始まり、午後5時半以降に打ち掛けとなる。23日午前9時に封じ手を開封して再開され、同日夜までに終局する見込み。  立会人は山下敬吾九段、新聞解説は孫喆七段、記録係は豊田裕仁二段と張心澄初段、YouTube解説は鈴木伸二八段。朝日新聞デジタルでは七番勝負の模様をタイムラインで徹底詳報する。 ■懸案は中央[1日目詳報]  午後5時10分、名人が放った白1を見て、挑戦者は考慮時間21分を投じ、同31分に次の一手を封じた。検討陣の封じ手候補は本命が黒A、対抗が黒B。どちらの手も上辺の折衝は先手で適当に切り上げ、目下最大の懸案である中央に手をまわす展開だ。焦点は上辺ではない。どれほどの陣地になるかなお見定めがたい中央の模様だ。  1日目は戦いらしい戦いはどこにも起こらなかった。図を見れば一目瞭然だろう。主導したのは名人だ。挑戦者が模様をどんどん広げるのに、いっこうに入らない。入った石は攻めの標的になり、攻められるのは必定。いかに大過なくしのぐかが勝負になるが、名人は突入せずとも陣取り合戦に分があると見ているようだ。  「中央の模様の広さは測りがたく、判断が非常に難しい。芝野さんはこういう碁も得意としています。現在の形勢は互角。一力さんを相手に、何もせず勝てば名局ですが、現在の形勢は互角です」と新聞解説の孫喆(そん・まこと)七段。 ■挑戦者が封じる[17:31]  午後5時30分に封じ手時刻を迎え、同31分に手番の挑戦者が93手目を封じる意思を示した。前局までとは異なり、重厚な展開で1日目を終えた。 ■白石和彌監督「囲碁の素晴らしさは」[16:10]  控室を来訪した高尾紳路九段とともに、白石和彌監督がYouTube中継に出演した。白石監督は午前9時の対局開始時に見学して以降、控室で棋士たちが交わす検討を興味深そうに見つめていた。  白石監督「トッププロが頭を寄せ合って検討しても分からないのが囲碁というゲームの素晴らしさの根源なんだろうなって」  高尾九段「映画も最善が分からないものですよね」  白石監督「でも、映画は最善を後から構築できるように、あのパターンもこのパターンも撮って、というふうに組み合わせていけるものですからね」  高尾九段「囲碁は『この手がまずかったから前に戻すか』って……」  白石監督「さすがにできないですからね(笑)」 ■ヨセ勝負になる可能性[16:10]  売られたけんかは必ず買う腕自慢の両者だが、どちらも仕掛けない。先に「いずれどこかで戦いになる」とお伝えしたが、戦いがないまま囲い合い、ヨセ勝負になる可能性がぐんと膨らんできた。  黒1以下の右辺の折衝で名人は右辺を確定地にし、挑戦者は黒7と懸案の左辺の弱点に備え、こちらも確定地に。中央が黒っぽくなり、ここで名人は中央に突入するかと思われたが、名人は下辺白8、10へ。「えーっ」と検討陣から驚きの声が上がった。決戦に及ばず、本当に囲い合おうとしているのか。  プロは仕掛けずに負けるのを極度に嫌がる。囲い合いで負けと判断すれば、勝負に打って出る本能が宿っている。名人のあまりの落ち着きぶりに、YouTube解説の鈴木伸二八段は「カド番の手とは思えない」とうなった。挑戦者は黒11とさらに中央の陣囲いを強化し、ここで名人が長考している。  ここから模様に突入する可能性はまだある。次の手が、本局の碁の形を決定づけそうだ。 ■「囲碁10級でもわかる名人戦」に再トライ[16:00]  「分かった気になる名人戦」の続編に挑戦する。  ここで考察。なぜ囲碁がとっつきにくいのか。それは白と黒だけという見た目の単純さと、あまりにも深遠なゲームの深さにギャップにあると考える。  例えば、お隣の将棋を考えてみたい。まったく素人でも、例えば王様の近くに相手の駒がたくさんあれば危なそうとなんとなく分かるし、強い駒の竜や馬が敵陣に侵入すれば迫っている雰囲気がする。価値の高い金をただで捨てれば意味が分からなくても「妙手!」と感動した気になる。駒に個性があるので、見栄えがするのだ。まったくの勘違いであっても、見た目で直感的な判断が出来るのが囲碁との大きな違いだ。なので素人同士であれこれ盛り上がることができる。すなわち観戦に向いている。  野球などのスポーツはだれでも評論できるのが魅力だ。記者は米大リーグにどっぷりハマっている。ドジャースのロバーツ監督の選手起用について異論を持っているし、大谷翔平選手に対する投手の配球にも、「自分ならこう攻める」と考えながら観戦している。もちろん何の意味もない素人の感想だ。でも楽しい。素人でも勝手に評論できるのがスポーツ観戦の醍醐(だいご)味だ。  囲碁はそうはいかない。盤上の無表情な石は、ただ存在している。  でも知れば知るほど、無機質な石の並びは、芸術の光彩を放っているようにみえるはずだ。  ということで、10級の目線で局面を分析してみよう。孫喆七段に再び聞いてみた。  iPadを使って、86手目の局面の戦況を視覚化してもらったのが図になる。  白の名人は、右上、左上、下辺の陣地を着実に増やした。一方、黒の挑戦者は、左下から左辺に陣地を築き、右下と上辺にも小さいながら陣地がある。  目にみえる陣地は明らかに白が大きい。では名人が優勢なのか。もちろんそんなことはない。  中央のまだどちらの陣地とも言えない赤色の部分は、黒の挑戦者の勢力圏にあるという。  赤色の部分を、黒がどれだけ自分の陣地にできるか。そこが今後の焦点となる。  さて、いま、今後の展開を握っているのは名人の側にあるという。  孫七段によると、名人には二つの選択肢がある。 (1)赤色の黒の勢力圏に深く踏み込んで、強気に黒の勢力を削りにいく。 (2)赤色の勢力圏を黒にある程度譲っても、他の地点で着実に陣地を確保し、黒の勢力を少しずつ削りながら微差で勝ち切る。  名人はどちらを選びそうですか?  孫七段「名人はきっちり計算して、ぎりぎり足りる展開を好む。成算のない踏み込みはしないと思います」  さて、この碁の見どころはどこですか? どんな光彩を放っていますか?  孫七段「細かい囲い合いになると、少しでも自分が得するような細かい技が無数にでてくる。そこが見どころですね」  一発のホームランで決まる大リーグではなく、終盤の一点を巡って確実に打者を送るスモールベースボールのような展開と、「分かった気」になっている。 ■おやつは1回?2回?[ココが違うよ、囲碁と将棋(6)]  子供も大人もみんな大好き「おやつタイム」だが、実は囲碁と将棋では大いなる違いがある。囲碁のタイトル戦では午後の1度だけ、将棋のタイトル戦では午前・午後の2度提供されるのが定石(定跡)となっている。  今月5、6日の将棋竜王戦第1局では挑戦者の佐々木勇気八段が1日目と2日目の午前・午後にシュークリームを4連続注文して話題を集めたばかりだ。また、囲碁界は対局室に提供されることになっているが、将棋界ではコロナ禍以降、自室で食べることがルール化されていることも両競技間の差異であろう。  いずれも長時間にわたって思考して戦う盤上競技で糖分補給を要することは共通するため、違いがあるのは慣例としか言いようがないだろう。  また、対局中の食事「勝負めし」でも両競技では全く事情が異なる。  将棋界は昼食、夕食と出前注文があり、ほとんどの棋士は出前を利用してエネルギーを補給するが、囲碁界には出前注文というシステムが存在しない。そのため、多くの棋士は弁当を持参したり、どこかで購入してから日本棋院などの対局場に向かっている。  さらに、夕食への対応にも違いがある。将棋界では、持ち時間が長く夕食休憩が設定されている棋戦において、棋士はほぼ100%休憩時間を取って食事をしているが、囲碁界は終局まで打ち続ける。  なお、休憩時間中の外出は、不正行為防止の観点で囲碁界、将棋界とも認められていない。 ■おやつに和菓子とフルーツ[15:00]  注目のおやつの時間になった。  芝野名人は、「煎茶と和菓子」に加えてぶどうジュースを選択。菓子は静岡県御殿場市の「雅心苑」のまろんぱいとうさぎまんじゅうという。  一力挑戦者は、色鮮やかなフルーツ盛り合わせとぶどうジュースを選んだ。 ■にらみ合い[14:25]  顔を合わせれば激戦になる両者の碁が、本局に限ってはなかなか戦いにならない。ともに仕掛けず、にらみ合いの中盤が続く。挑戦者の黒1で、左辺から中央にかけて黒模様らしきものの姿が見えてきた。しかし△には白Aと切る狙いもあって、まだまだ死にきっていない。名人は死んだふりをして右辺白2に転戦した。  囲い合いの様相だが、ふたりの碁がこのまま戦いなしに終わるとは考えにくい。双方確定した陣地の広さは、名人のほうにやや分がありそうだ。仕掛けるのは挑戦者か。 ■相性?過去は全勝と全敗  ススキ野で有名な箱根・仙石原にあるホテル花月園は囲碁と将棋のタイトル戦を数多く開催した名宿である。  芝野は過去に2局。昨年1月の棋聖戦七番勝負第2局で一力遼棋聖に勝利。同11月の名人戦七番勝負第6局では井山王座に勝ち、4勝2敗での2連覇を決めた舞台でもある。  一力は4局目。先述の芝野戦の他、連戦で打たれた一昨年の棋聖戦第5、6局、今年2月に棋聖戦第6局では、いずれも井山王座に敗れており、4戦全敗。鬼門となっている。  将棋では1983年の名人戦第6局が今もなお語り継がれている。加藤一二三名人に谷川浩司八段が挑戦した七番勝負。谷川八段が勝利してシリーズ4勝2敗で初タイトルの名人を奪取し、21歳2カ月の当時史上最年少の名人となった。会見で語った「1年間、名人位を預からせていただきます」の名ゼリフは語り草になっている。(肩書や段位はいずれも当時) ■鋭い表情、対局再開[13:00]  午後1時になり、対局が再開された。  芝野が先に戻り、眉間(みけん)にシワを寄せて盤上をにらんでいる。2日目の午後に見せるような表情だ。  一力も顔つきは鋭い。不動心で世界の頂まで到達したが、名人位への熱情をうかがわせるような眼光である。  手番の芝野が熟考している。 ■対局室に彩り  床の間には季節の花々が飾られ、殺気に満ちた対局室に彩りを与えている。  アセボ、グロリオサ、セロシア、アリストロメリア、輪菊、トルコキキョウ。ホテル花月園の担当者が業者とともにセレクトしている。 ■「碁盤斬り」の白石監督が見学  囲碁を主題とした時代劇映画「碁盤斬り」(今年5月公開)のメガホンを執った白石和彌監督(49)が現地に来訪し、開始時の対局室を見学した。  スチールカメラで写真を撮るなどして、見学を終えると「名人と挑戦者が入るまでみんな和気あいあいとしていたのに、入室するとすぐに背筋が伸びて。今まで体験したことのない空間で、こちらまで武者震いするような時間でした」と初めての体験を振り返った。  極道の世界を描いた映画「孤狼の血」シリーズや女子プロレスラーたちの青春群像を活写したNetflix「極悪女王」など、人間と人間が戦うシーンを数多く撮ってきた立場だからこそ抱いた思いがある。  「囲碁も人と人が対峙(たいじ)する姿ですから、今日は、これからの自分に何かしらの影響を与えるような体験でした。映画って何で撮るかと言われたら、記憶で撮るので、あの瞬間の空気感をどう自分の中に取り込めるか。棋士は清く正しく姿勢良く、表情を出さずにいますけど、きっと心の中では『極悪女王』のレスラーのように殴り合ってるような部分もあると思うんですよ」  映画は虚構だが、名人戦の現場とは言うまでもないドキュメンタリーである。  「映画って、どこまでいってもウソはウソで『失敗してももう1回やるから大丈夫です』って言ってやっている世界です。今、侍の斬り合いを実際に見たことがある人はいませんけど、今日の二人は本当に怖かった。途中、一力さんが僕をチラッとにらんだんですよ。多分、見慣れないヤツがいるなあと思ったのだと。自分としては(心が)キュ~ッとしましたよ、ホント」  次回作でも戦いを描く。戊辰戦争に決死隊として召集された罪人たちを描いた「十一人の賊軍」が11月1日に公開される。戦いに臨む者を描くことは、これからも監督としての主題になっていくという。 ■昼食は海の幸[12:00]  昼食休憩になった。芝野名人は鉄火丼を選択。マグロは小田原漁港で水揚げされたものだ。一力挑戦者はフレッシュトマトのペスカトーレを選んだ。こちらも地元・神奈川の魚介類をふんだんに使っている。 ■囲碁10級でもわかる名人戦 いまの盤面は[11:00]  囲碁は難しい。盤面をみても、専門用語が飛び交う解説を聞いても、何をしているのかわからないという読者は多いだろう。  そこで、初心者でも「分かった気になる」解説を試みる。記者は囲碁アプリ「囲碁であそぼ」で10級。人間と打てばおそくら20級以下だと思うが、10級と言い張っている。孫喆七段に「10級でも分かるように解説してください」とムチャぶりしてみた。  まず、iPadを使って、46手目の局面の戦況を視覚化してもらった。白色で塗ったところが白の芝野名人の陣地、黒色が黒の一力挑戦者の陣地である。  白の名人は右上と左上、さらに下辺に陣地がある。  一方、黒の挑戦者は、右下と左下、さらに上辺に陣地がある。  こうしてみると、だいたい同じような形勢にみえるが、孫七段によると、「白には確定地(陣地になったと確定したところ)が多いが、黒は未確定な部分が多い」という。黒の陣地は、白に侵入されて荒らされる可能性があるというのだ。  ここまでいいですか? 初級者のみなさん。  では今後のポイントはどこなのか。孫七段によると、盤面左側にある黒石2個がポイントだ。赤色に塗ってもらった。この石は、現状は不安定だが、陣地作りに役立つ展開になると黒がよくなるという。なので、一力挑戦者は、赤色で塗った二つの方向に陣地を広げていく戦略だ。盤の上側の黒石1個と、左側の黒石2個をつなぐイメージと、右上から右下に広げるイメージの二つだ。  一方、白の名人の態度は、「どうぞ、どうぞ、何をされてもいいですよ」。白は黒よりしっかりした陣地が既にあるので、黒に動いてもらって、黒の狙いを阻止していく。  従って、黒の挑戦者は、赤色の線に沿って、模様を広げていくことを目指し、白の名人はその狙いを邪魔する展開になりそうだ。  「分かった気」になって書いてみた。いかがでしょうか? ■「囲碁将棋TV」解説始まる[10:00]  YouTube「囲碁将棋TV」の解説が始まった。解説者の鈴木伸二八段と、ゲスト出演の村川大介九段が序盤の進行を振り返った。  鈴木八段は3手目のダイレクト三々について「天元戦の第1局では黒番で芝野さんが打っていた。芝野さんの研究しているところを、(一力挑戦者が)さらに研究して打っているのかもしれない」と話す。その後は「何となくゆったり構えて急がず、一番穏やかな進行になった」という。  本局の立会人は山下敬吾九段。2日前の棋聖戦挑戦者決定トーナメントの準決勝で、芝野名人と対局したばかりだ。結果は山下九段の勝ちだった。鈴木八段は「のちほど出演していただき、その話もしていただければと思います」と布石を打っていた。 ■超スピード進行に[9:15]  挑戦者が決着をつけるか、カド番の名人が踏みとどまるか。大事な一局なのに、黒番の挑戦者の初手から猛烈な速さで手が進んでいる。黒1、白2に黒3のダイレクト三々はノータイム。事前に策を用意するタイプの挑戦者だ。あらかじめ決めていたのだろう。黒7まで一段落。白8から黒11までお互いわが道をゆき、名人の白12のカカリに挑戦者は黒13のハサミ。  AI時代は布石の研究が劇的に進化した。ときに事前の策が50手以上、実戦に反映されることもある。本局の布石、両対局者はどこまで想定しているのだろうか。 ■対局開始、そしてダイレクト三々[9:00]  対局開始の定刻になり、立会人の山下敬吾九段が「始めてください」と言うと両対局ともに一礼。黒番の挑戦者がすぎに右上星に打ち、白番の名人も間を置かずに対角線の左下星へ、すると挑戦者も待っていたかのように左下に流行定石「ダイレクト三々」を放った。

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