完工式なのに恨み節 着手40年の川辺川利水事業

今村建二
[PR]

 熊本県あさぎり町で21日、国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の完工式があった。着手から40年。人吉球磨地域に川辺川ダムから水を引き、新たな農地も造成する巨大事業は迷走し、当初計画の5%程度に対象面積が縮小する結果になった。出席者からは恨み節が相次いだ。

 地元選出の衆院議員、金子恭之・元総務相は、祝辞で「夢のような計画だったが頓挫してしまった」と残念がった。「喜びは3割、7割は悔しさです」といってはばからなかったのは、川辺川総合土地改良区の理事長として出席した錦町の森本完一町長だ。

 溝口幸治・県議長は「めでたい席かどうかわからずにここにいる」と述べた。「国家プロジェクトだったが、地元の反対・批判で規模が縮小されてしまった」

 事業を肯定してきた政治家らに対し、紆余(うよ)曲折した利水事業を農家はどう見ているのか。

 土地改良区に所属する農家は「時代が移るにつれ、後継者がいなくなり、必要な水も減った」と冷めた目で見る。

 利水事業に反対し、原告団副団長として裁判で勝訴を勝ち取った茂吉隆典さん(78)=熊本県相良村=は、「水が必要な農家には、ぜひ届けてほしいと国には言ってきた。それが実現してよかった」と完工の意義を語る。その上で、「事業さえできればよいと考えた人たちが、農家に必要のない規模で、だましてまでやろうとした。その姿勢が問われた」と振り返る。茂吉さんの目は今、2020年の豪雨をきっかけに復活しようとしている川辺川ダムが、どう進められるかに向けられている。(今村建二)

     ◇

 川辺川総合土地改良事業が着手されたのは1983年度。当初の計画では対象面積は3590ヘクタールだった。多くの農家はすでにある水源で十分として、巨大事業に疑問をもち、中止を求めて裁判を起こした。

 一審は国が勝訴。福岡高裁での二審の過程で、事業を進める上で必要な農家からの同意書に改ざんされた痕跡が多数あることが発覚した。高裁は2003年、事業に必要な同意率を満たしていないと判断。国は敗訴し、判決はそのまま確定した。

 農林水産省は利水事業をダムから切り離した。この影響もあって、国土交通省は川辺川ダム計画を2009年に中止した。

 一方で農水省は、チッソが川辺川にもつ発電所の水を活用する新たな案を練った。だが農家を翻意させられなかった。結局、事業の大半を占めるかんがいは廃止し、農地造成なども規模を大幅に縮小。最終的な事業規模は対象面積198ヘクタール、総事業費252億円(見込み)となった。水が必要な農地には井戸水や沢水から供給する。(今村建二)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら