活断層防災は取り残されている? 揺れとずれ対策、28年後の現在地
大阪・千里ニュータウンからさらに北へ。開通まで1年ほどに迫った新しい鉄道には、活断層対策が施されている。
地下鉄御堂筋線と直通運転する北大阪急行電鉄の終点、千里中央駅から、新設される箕面萱野(みのおかやの)駅まで2・5キロ。トンネルと高架による延伸線は、複数の活断層と交差する。
もし活断層が大きくずれ動けば、被害は免れない。そこで整備主体の大阪府箕面市が開いた技術検討会で、被害を小さくとどめる方策が議論された。
活断層またぐ対策
小野原断層を横切る部分では、トンネル内の空間を広げるとともに、一定間隔で接ぎ目を入れてずれに応じて変形しやすくした。トンネルを掘り直す事態を避け、復旧を早める工夫だ。
野畑断層をまたぐ高架橋は、橋桁を長くして、4本の橋脚の上に載せる構造にした。落橋を防ぐとともに、ずれの影響を吸収しやすくした。
こうした鉄道の活断層対策は、ほかにも大阪市の地下を走る京阪電鉄中之島線(2008年開業)などの例がある。
「活断層」という言葉は、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災で広く知られるようになった。淡路島では、この地震を起こした活断層、野島断層のずれが地表に現れた。
近畿地方に活断層が密集していることは、専門家の間では知られていた。しかし、世間では「関西で大地震は起きない」との思い込みが広がっていた。
この教訓から震災後、国や自治体による活断層調査が進み、詳しい位置を示した地図も広く公開されるようになった。
活断層による地震は地下の浅いところが震源になるため、周囲を激しい揺れが襲う。地面のずれは、場所によって何メートルにもなる。鉄道のほか、公共施設の立地や大規模開発で活断層の位置を避けたり、考慮した建物配置にしたりするケースも、各地でみられるようになった。
限られる「避ける」対策
ただ、こうした土地利用上の対処は、30年近くたっても大きな広がりをみせていないのが現状だ。
「地盤災害、津波、水害と、法律で区域を指定して対策を取る仕組みができたのに、活断層は取り残されている」。日本活断層学会会長の鈴木康弘・名古屋大教授はこう話す。
95年当時、活断層付近の土地利用を規制する米カリフォルニア州の法律が注目を集めた。しかし、米国に比べて日本の活断層は活動間隔が長いこと、直上に多くの建物が立っているといった事情もあり、国レベルの動きにはつながらなかった。
その後、ほかの自然災害では、リスクの高い場所を区分けして周知したり、制限を加えたりする法律の整備が進んできた。
土砂災害警戒区域を定める土砂災害防止法(2000年成立)、津波災害警戒区域の津波防災地域づくり法(11年成立)、浸水被害防止区域の流域治水関連法(改正特定都市河川浸水被害対策法、21年成立)などだ。
20年には、不動産取引時の「重要事項説明」に水害リスク情報が追加され、ハザードマップを示して土地や建物の位置を説明することが業者に義務づけられた。土砂災害や津波の警戒区域、盛り土の「造成宅地防災区域」も説明対象として明記されている。
「『日本ではどこでも大きい地震が起こる』と呼びかけられることが多いが、活断層の近くは特に注意が必要」と鈴木さんは警鐘を鳴らす。16年の熊本地震では、活断層から100メートルほどの範囲に激しい被害が集中、断層に近いほど建物の被害率が高くなる傾向がみられたという。
「以前は土地にレッテルを貼りたくないという考えも強かったが、今は区域指定して災害を軽減する考え方が一般的になっている。どこまでの対策を求めるかは議論の余地があるとしても、取り組まない理由はない」
記事後半では、思っていたより頻繁に動いていた活断層の話、建築での対応を促している自治体の事例を紹介しています。
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