「ニュクスの角灯」の高浜寛さん、今春に新長編 舞台は故郷の天草

榎本瑞希

 2020年に手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した高浜寛(かん)さん(45)が23年春、新作「獅子と牡丹(ぼたん)」の連載をスタートする。故郷の熊本・天草で江戸時代初期にあった「天草・島原の乱」をテーマに取材を重ね、「名もなき人を書き残す」と情熱を傾ける。

 高浜さんは01年にデビューした頃は、恋愛や家族といった身近な題材を描いてきた。その後、幕末と明治の長崎を舞台にした歴史ファンタジー「蝶(ちょう)のみちゆき」「ニュクスの角灯(ランタン)」「扇島歳時記」の3部作に挑み、22年夏に完結した。

 「獅子と牡丹」のキーパーソンは、民衆を率いて江戸幕府と戦ったキリシタンの天草四郎。現代に生きる主人公が借金を抱え、「天草四郎の埋蔵金がある」という言い伝えを聞いて歴史に潜り込むことから物語が展開していく。

 19年に天草に転居した高浜さんは、地元の歴史をひもといて膨大な人物相関図をつくり、物語の構想を練っている。以前、母方の親族から「先祖は肥前松浦から天草にやってきた」と聞いた。祖母の実家に古文書も残されており、「調べてみると自分の作品世界とつながった」という。

 高浜さんは「埋もれてしまった人を描き出すのが自分の役割」と話す。アルコール依存症に苦しんだ時、ともに断酒を目指していた青年が不慮の死を遂げた。16年の短編集「SAD GiRL」に、その青年が登場する。「誰にも知られずひっそりと死んだそいつへのせめてもの弔いに、そいつが主人公の漫画を描いてやろう」(本文から抜粋)。その視線は、遠い昔に生きた人々にも向けられる。

 「獅子と牡丹」には、長崎3部作の登場人物とその先祖、子孫も登場させ、「10年ぐらいかけて描きたい」という。3部作で深めた人物描写もさらに研ぎ澄ませ、「善人として登場したキャラクターの、悪の部分を描いていく」という。

 連載はリイド社のウェブサイト「トーチweb」(https://www.to-ti.in/別ウインドウで開きます)に掲載予定。(榎本瑞希)…

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