国葬と教団問題から考える「分断の政治」 安倍政治的なものの総決算

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 岸田文雄首相が決断した安倍晋三元首相の国葬に国民の賛否は割れ、世論の分断を生みました。安倍氏の銃撃事件後には、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」と安倍氏や自民党議員との接点が次々と明るみに出ています。長谷部恭男・早稲田大教授(憲法)と杉田敦・法政大教授(政治理論)、加藤陽子・東京大教授(日本近代史)は、政治と教団の関係をめぐっても、分断が問われていると言います。国葬や教団の問題から、私たちは何を考え学ぶことができるのか。3氏に語り合ってもらいました(収録は10月19日)。

菅氏スピーチの「読みの浅さ」

 加藤陽子・東京大教授 9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われました。なぜ国葬なのか、法的根拠があいまいだとの批判が最後までやまず、世論は二分されました。

 長谷部恭男・早稲田大教授 岸田文雄首相は法令上の根拠を十分に詰めないまま、国葬にすると決めてしまった。背中を押したのは内閣法制局だと報じられています。安倍政権によって骨抜きにされた内閣法制局が、ある意味「期待通り」の仕事をしたということでしょう。

 杉田敦・法政大教授 私は国葬のテレビ中継を見ていません。たまたま用事で出かけていたということもありますが、オリンピックなどと同様、国家的イベントで人々を「動員」しようとする動きに対しては、賛成、反対だけでなく、やりたいのなら勝手にどうぞ、私はあえてスルーしますという自由主義的な対応も、ありうると思っています。

 加藤 私は安倍さんの国葬も、エリザベス女王の国葬も、両方しっかり見ました。思想及び信条の自由が保障された私的空間とは異なり、宗教的に中立な儀礼の場を公共空間と呼べば、安倍さんの国葬は、公共空間をつくることに不慣れな人々が手がけて、やはり失敗していたと思います。内閣総理大臣の「おわり」は、国会で指名されるという「はじまり」の瞬間と呼応させないといけません。ゆえに吉田茂の国葬をやるにあたって、当時首相だった佐藤栄作が野党と内々に話をつけた。しかし今回は、敵対する党派を引き込む努力を怠りました。いきなり国葬ではなく、10月25日の衆議院本会議で立憲民主党の野田佳彦元首相による追悼演説がなされたような送り方でもよかったのでは。ほかにも、4時間を超える拘束を各国の王族に強いるなど、抑制と緊張感を欠いた締まりのない国葬が行われてしまったことはとても残念でした。

 杉田 菅義偉前首相の友人代表としてのスピーチには、「感動した」という声も多かったようですが。

 加藤 菅さんが良かったのは、安倍さんが読んでいたという、岡義武の「山県有朋」を手に取り、ページの端が折られていることなどを自分で確認したことです。でも、伊藤博文が亡くなったところを引いたことに、私はガクッときました。山県が真の盟友と見定めていたのは西郷隆盛です。西南戦争の最終盤、木留の戦闘にあたって山県が詠んだ「木留山しらむ砦(とりで)のすてかがりけぶるとみしはさくらなりけり」という名歌があり、西郷の首級を目にした山県が涙を流し、「このひげは三日剃(ぞ)りくらいだろう」と言ってそのひげをなでたという、ものすごい場面もあの本には描かれています。ずっと一緒にやってきた盟友を失った、明治10年の山県有朋の慟哭(どうこく)。はっきり言って、伊藤なんてどうでもいいんですよ、山県にとっては。そのあたりの読みが極めて浅い。官邸が抱えてきたスピーチライターのレベル、安倍さんを支えてきた人たちの地金みたいなものが今回、はからずも露見してしまったように思います。

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 安倍晋三元首相が銃撃され、死亡してから4カ月。岸田文雄首相が決断した国葬は世論を分断しました。考論オンライン「〈分断の政治〉の、その向こうへ」では、長谷部恭男・早稲田大教授、杉田敦・法政大教授と加藤陽子・東京大教授の3人に縦横に語り合ってもらいます。

国葬での自衛隊の役割が物語ること

 杉田 ところで、イギリスの国葬ではなぜあんなに軍が前面に出てくるのでしょう。旧植民地の人々からは、大英帝国の軍国主義的、帝国主義的な歴史への反省がイギリスにはまったくないとの批判も、改めて出ていましたが。

 長谷部 女王は別として、イ…

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    内田晃
    (朝日新聞政治部次長)
    2022年11月1日16時40分 投稿
    【視点】

    鼎談のなかで、杉田敦・法政大教授は「最近の世の中の雰囲気を見ると、不幸な事件をきっかけとして、安倍政治的なものの総決算に入っている感じがします」と指摘しています。 確かに、長く日本政治のど真ん中にいた安倍元首相が突然いなくなったことで、政

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