不登校、親も一人じゃないよ

大下美倫
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 【兵庫】夏休みが終わり、新学期が始まる9月は、不登校の子どもを持つ親からの相談が増える時期でもある。不登校の子どもを支援する現場は、親もまた不安を抱え、孤独を感じていると指摘。親に寄り添い、支えることの大切さを訴える。

 当時のことを思い返すと、つらくていまでも涙があふれてくる。神戸市垂水区の山口あやさん(42)には、小学3年から不登校になった中学1年の長男がいる。現在は別室登校をしながらフリースクールに通う息子に、最初は親としてどう接したらいいか悩む日々だった。

 長男は小学2年のころから、学校に行きたがらなくなった。「勉強はどうするの? 友だちは?」。学校に通うことを当たり前と思っていた山口さんは、何とかして行かせないといけないと思い詰めた。

 家から学校までは徒歩で10分ほど。「行きたくない」と叫ぶ長男を担任教師と大人2人で引っ張り、1時間半かけて学校に連れて行ったこともあった。別の日は、手をつなぎ、無言でうつむく長男が嫌がっているのを感じながら学校まで一緒に歩いた。

 世間の目も気になった。「あそこの子は不登校」と一部でうわさされていることを知り、周りと同じになれないことを恥じて、自分の育て方を責めた。大切な息子に無理を強いる自分を嫌悪しながら、それでも、学校に行ってくれるとほっとした。長男が「普通」になった気がした。

 振り返ると、後悔することだらけ。その時は余裕がなくて、長男の気持ちより、学校に行かせる「使命感」ばかりが頭にあった。

 小3の3学期、長男が学校に全く行かなくなった時に、同区でフリースクールを運営するNPO法人「ふぉーらいふ」を知った。体験に行くと、同様の葛藤を抱えた子どもたちの存在に安心したのか、長男はすぐに楽しそうに通い始めた。

 山口さんにとっても、同じように不登校の子を持つ親に出会えたことは大きかった。なにより印象に残ったのは、親たちの明るい笑顔だった。「うちだけじゃない。不登校でも笑っていいんや。自分が元気じゃないと、子どもも家族もしんどいやろうな」。そう思えた。

 長男はいま、フリースクールで仲良くなった友人と遊び、テニスやプログラミングの勉強に関心を寄せる。「不安が完全に消えたわけじゃない」と山口さん。ただ、学校に行けなくても、長男も自分も一人じゃないと分かって、子どもの背中を押せるようになった。「好きなことは好きなだけやればいい」

     ◇

 「学校に行けない子どもに、どう声をかけたらいいか分からない」。NPO法人「ふぉーらいふ」には、不登校の子どもを持つ親から多くの相談が寄せられる。特に9月は相談が増える時期だという。

 理事長の中林和子さん(75)は「親も、夏休みに入ると周りも休みだからとほっとして、2学期が見え始めるころからそわそわするという声は少なくありません」と話す。

 中林さんは、不登校の子どもが安心できる家庭環境をつくるためにも、親を支えることが大事だと考えている。「親が元気でないと、子どもの気持ちを受け止めることができず、子どもも元気になりません」

 ふぉーらいふは毎月1回、親の会を開き、親同士がつながる場づくりに取り組んできた。子どもがフリースクールに通っていなくても参加でき、毎回10人ほどが集まる。自分の経験を話したり、悩みを一緒に考えたりする。

 中林さんは「学校に行かないのは悪いことだという社会の刷り込みもあって、子どもを否定することなく受け入れるのは難しい。発信を増やして、一人じゃないと伝えていきたい」。

 親の会は毎月第3土曜日に開催。参加費は一人200円。問い合わせはふぉーらいふ(078・706・6186)。

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この記事を書いた人
大下美倫
ネットワーク報道本部
専門・関心分野
公共、社会への参加、政治、ジェンダー