次世代新幹線試験車両 360キロ超 みちのく沿線駆ける

聞き手・池田良 池田良
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 【宮城】JR東日本が、6月に開業40周年を迎えた東北新幹線をいまの最速320キロから360キロに引き上げようと開発を進めている。「ALFA(アルファ)―X(エックス)」と呼ばれる試験車両をつくり、2019年から夜間に試験走行。今年5月からは日中にも走らせ、課題などを洗い出している。ALFA―Xの開発を担う同社先端鉄道システム開発センター次世代新幹線プロジェクトリーダーの原正明さん(48)と同研究員の大橋翼さん(35)に現況や展望を尋ねた。

 ――360キロ走行はすでに到達したのでしょうか。

 大橋さん 夜間走行で実は400キロ出しています。360キロに1割ほど超えた分の性能を確保したいからです。

 ――さらに上げることはできますか。

 原さん 実は1993年に同じ試験車両の「スター21」が425キロを記録しています。ただ、日本の高速鉄道が誇るのは、高速走行だけではなく、安全と環境性能に高いレベルで配慮していることです。

 ――とはいえ、速度は一つの指標として魅力です。

 原さん スピードアップは魅力的ですが、技術者としては悩みがあります。

 ――悩みとは。

 原さん 時速200キロから300キロに上げるのは、100キロから200キロに上げるよりも技術的には結構大変です。

 ――ALFA―Xの運行ダイヤはわかりますか。いつ、どこで見られますか。

 大橋さん 公式に発表していませんが、主に仙台―新青森を往復しています。

 原さん 仙台駅で午前8時、正午、午後4時ごろ。新青森駅は午前10時、午後2時、同6時ごろを目安にしてもらえば、遭遇できるかもしれません。

 ――営業車両にない最新技術はありますか。

 大橋さん ポイントはいかに速く止めるかで、開発品を試しています。

 ――具体的には。

 大橋さん 「空力抵抗板ユニット」と「リニア式減速度増加装置」です。一つ目は車両の屋根裏から板が上がるもの。イメージとしては、飛行機の着陸時に翼からはね上がる板と同じで、空気抵抗を使います。二つ目は、台車の下にコイルをつけて、レールとの電磁力の力を借りようと考えています。

 ――次世代の車両に搭載されますか。

 原さん 実現の可能性を探る段階で、はっきりとは決まっていません。

 ――試験車両ならではのモノはありますか。

 大橋さん さまざまな測定器などが搭載されています。外見からわかるのは、車両の窓の大きさです。車両ごとに極端に大きさを変え、窓がない号車もあります。窓はどうしても音が通過し、車内の静粛性の点からも重要な開発要素です。すれ違う車両への風圧や車体が受ける影響なども加味しないといけません。その検証のためです。

 ――技術の進化で、変わるものはありますか。

 大橋さん メンテナンスの向上です。見た目や表に出るような技術ではありませんが、社会的なニーズにつながると思っています。

 ――新幹線がどこまで便利になるのか興味がある一方で、私個人としては現状でも満足しています。

 大橋さん 研究開発は止めてしまうと、衰退につながってしまいます。新幹線は技術の塊で、協力企業のみなさんと技術を上げていく意味でもさらなる高みへの挑戦は重要です。

 ――技術者の醍醐(だいご)味はどこにありますか。

 大橋さん ホームへ入線すると小さなお子さまが手を振ってくれ、撮影するお客さまの姿をよく見ます。注目度が高いことはモチベーションにつながります。

 原さん 海外ではかたちにならず車両開発が終わってしまうケースもあります。ALFA―Xはすでにかたちになり、走っています。技術の壁に苦しむことはありますが、未来へつながる、携われることを実感できて非常にいい仕事をさせてもらっています。

     ◇

 ALFA―Xは、次世代新幹線の開発を進めるための試験車両のことで、正式名称は「Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation」(最先端の実験を行うための先進的な試験室)。型式は「E956系」で、10両編成だ。

 開発にあたり、追求する主なコンセプトは、「安全性・安定性」「快適性」「環境性能」「メンテナンスの向上」。2019年5月から試験走行が始まり、22年3月までにコンセプトに掲げる項目の検証、向上を目指して実際の線路上で実験。これまでに東北新幹線沿線の営業車両が走っていない夜間帯に、のべ182日、14・5万キロの走行を重ねてきた。

 今年5月からは、日中の営業時間帯に試験し、現行の営業車両とすれ違った時の風圧などの検証や、地震対策をはじめとした開発品の耐久性の確認、将来の自動運転に向けた基礎的な研究などを始めた。

 外観で特徴的なのは、車両の「鼻」にあたる先頭部が22メートルと長いことだ。トンネル進入時にトンネルの出口付近に圧力波が伝わり騒音が発生する現象(トンネルドン)などを減らすための構造で、これまでの新幹線車両で最も長い。東海道新幹線の初代0系や東北新幹線初代200系は、丸みを帯びた「団子っ鼻」が親しまれていた。新幹線のスピードアップの歴史とともに鼻も伸びている。

 JR東日本によると、ALFA―Xはおおむね2年ほどかけ、計80万キロを目安に日中の走行実績を重ねる。30年度予定の北海道新幹線の札幌延伸に向けた新型車両に、ALFA―Xで得た知見や技術などを導入したいという。

 8月19日に開かれたふるさと納税を活用した新幹線総合車両センター(利府町)での見学ツアーではサプライズでALFA―Xが公開された。運行ダイヤが公開されておらず、なかなかお目にかかれない車両を間近で眺められたほか、運転室にも入れたという。長男の雄基さん(3)と訪れた静岡市の会社員、杉本佳子(よしこ)さん(40)は「貴重な経験が子どもの成長につながります」と2人で満面の表情を浮かべた。

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この記事を書いた人
池田良
山口総局|警察・司法、交通担当
専門・関心分野
交通、経済、福祉、写真