読んだ子の心を「ぽっと」 新人賞受賞の幼年童話 翻訳・続編も決定

足立朋子
[PR]

 【神奈川】編集者の傍ら、童話を書き続けてきた川崎市の原正和さん(49)が、「うさぎとハリネズミ きょうもいいひ」(石川えりこ絵、ひだまり舎)で今年度の日本児童文学者協会新人賞を受賞した。幼児用の絵本ではなく、子どもたちが、挿絵と言葉で物語を味わう「幼年童話」の作品だ。この分野からの受賞は近年珍しいという。

 物語の舞台は、すりばちのようにくぼんだ「すりばち森」。そこでのんびりやのうさぎとちょっぴり繊細なハリネズミが出会い、少しずつ友情を深めていく。飾り気のない文章ながらも、キャラクターの心の動きをよく伝え、温かい読後感が残る作品だ。

 選考委員の一人で絵本作家の本間ちひろさんは「平易な言葉を使い、子どもたちが肌感覚でわかる物語で、作品に変化をつける幼年童話は難しい」と話す。その上で「お話の中で、うさぎとハリネズミがつく小さなうそが心を『ぽっと』させてくれる。文学というものの楽しさに幼い読者を踏み込ませてくれ、長く読み継がれると思う」と称賛する。

 原さんは、高校時代に古本屋で見つけた安房直子さんの「きつねの窓」の世界観に心を揺さぶられた。そのジャンルが幼年童話であることを知り、大学卒業後は出版社で働きながら創作を続けてきた。

 シンプルな文章だからこそ、声に出して読んだときの言葉の響きにとことんこだわる。今回は編集者や作画の石川さんも加わり、繰り返し音読してつっかかる部分は表現を変え、耳に心地よい文章を心がけたという。韓国やスペイン語への翻訳や続編出版も決まり、忙しくも充実した毎日だ。

 児童文学を志した原点は、昨年亡くなった那須正幹さんの「ズッコケ三人組」シリーズだ。小学生の時に出会って「大感動」し、作家を目指すことを決めた。「一緒に冒険し、遊び、時には悪いこともする子どもの『共犯者』でありたい。幼い、あの当時しか味わえない面白さ、幸せがあり、そのために書いていきたい」(足立朋子)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません