白人男性中心のルール書き換える 女性とLGBTQによる米メディア

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聞き手・城俊雄

 米国ではワシントン・ポストなど大手メディアをはじめ多くの報道機関で編集部門のトップを女性が務めており、女性の存在感という意味では日本の先を走っている。それでも、新聞やテレビを含めた大手メディアが発信するニュースの約6割を男性ジャーナリストが担っているとの調査報告もあり、政治や政策をめぐる報道は圧倒的に男性主導が続いているとも指摘されている。

 社会を報じる側が男性に偏っていては、女性の視点を反映した多様なニュースは生まれない――。そう考えた女性ジャーナリストたちが2020年1月、テキサス州オースティンを拠点に、非営利のオンラインメディアを立ち上げた。

 社名は、女性の参政権を保障する米国憲法修正19条にちなんで「The 19th」。社員のほとんどが女性とLGBTQの人々だ。立ち上げがコロナ禍と重なり、一時は計画延期に追い込まれそうになったが、コロナ禍による経済苦、雇い止め、育児などで最もしわ寄せを受けた女性たちに寄り添う報道を展開し、読者を引きつけてきた。

 米国では、連邦最高裁が6月に人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた過去の判決を覆す判断を示し、女性や性的少数者の権利後退への危機感が急速に高まっている。こうした問題を連日報じる同メディアの読者数も急激に伸びているという。創設メンバーの一人で最高経営責任者のエミリー・ラムショーさんに、ジェンダーにこだわる報道の意義と可能性について聞いた。(聞き手・城俊雄)

「The 19th」最高経営責任者 エミリー・ラムショーさんインタビュー(Journalism9月号から)

記事のポイント

◆女性たちだけで立ち上げた米国のオンラインメディアが好調だ

◆白人男性主導の既存のメディアが見落としているニュースを、ジェンダーとLGBTQの視点から伝えている

◆全ての記事の無料転載を許可する方針を打ち出し、影響力の拡大を狙う

     ◇

――ニュースメディアを取り巻く経営環境が一段と厳しくなっている中で、「The 19th」を立ち上げようと決意した理由は何だったのですか。

ラムショー 新しいメディアを立ち上げたいという考えが最初に芽生えたのは、2016年の米大統領選でヒラリー・クリントン氏がドナルド・トランプ氏に負けた時でした。選挙中のニュースの見出しや記事には「彼女は“electable”(当選しうる、選出されるにふさわしい)か“likable”(好感が持てる)か」といった論調がたくさんありました。私にはこれらのすべてが根本的に性差別に根ざしているように思えました。トランプ氏についてこのようなことは問題にされているようには見えませんでした。そして、米国の女性たちでさえ圧倒的に女性大統領を選ぼうとは思っていなかったのです。私を覚醒させる大きな出来事でした。

 この国の物語(national narrative)を書いたり、書き換えたりするメディアの役割に対する私の考え方にも大きな影響を与えました。「もし女性たちの経験を中心に据えた全国的なニュースメディアがあったなら?」「もし“electable”とか“likable”ではなく、リーダーシップが問われていれば?」などと思いを巡らしました。ジェンダーを中心に据えて報道するメディアが存在すれば、きっと素晴らしいものになるだろうと、その時初めて思いました。しかし、当時、産休を取っている最中だったので、新しい大きな一歩を踏み出せる時期ではありませんでした。しかし、明らかに取り組むにふさわしいアイデアだから他の人が実行するだろうと考え、この思いを自分の中で封印しました。

米国の物語を紡ぎ直す

後半紹介では、白人男性が仕切るメディアの課題、「社会から疎外された人」が自ら報じる意味、非営利モデルで拡大する戦略などを聞きました。

――それから4年が経ち、20年は再び大統領選の年でした。当時、ラムショーさんは、米国で最も成功した非営利のオンラインニュースメディアの一つであるテキサス・トリビューンの編集長を務めていました。

ラムショー (20年の大統領選と上下両院の選挙には)これまでよりも多くの有色人種を含む女性たちやトランスジェンダーの人々が立候補しました。依然として“electable”や“likable”が話題になっていました。選挙をめぐるニュースや論調に性差別や人種差別を感じました。16年の大統領選以降、私が考えたアイデアを実行する人は出てきませんでした。自分が適任かどうか分かりませんが、誰かが実行しなければいけないと思いました。そして、当時、テキサス・トリビューンの同僚で最高オーディエンス責任者を務めていたアマンダ・ザモラさんの強い後押しにも支えられ、私たち2人を含めた数人の仲間がこの国の物語を紡ぎ直すという挑戦に踏み出しました。

―米国の物語を紡ぎ直す?…

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    中塚久美子
    (朝日新聞専門記者=子ども、貧困)
    2022年9月14日18時56分 投稿
    【視点】

     同じことを考えている人がいた。しかも、もう行動している!  この記事は「Journalism9月号」に掲載されているインタビューです。数日前に読んだ時、勇気づけられました。「The 19th」最高経営責任者、エミリー・ラムショーさんと同

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