浴槽で転倒、2日半動けず 独居の81歳を救ったのはあの約束

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井上充昌
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 一人暮らしをしている大阪市の秋吉宗子さん(81)は、肌寒さの残る5月、浴槽で転倒し身動きが取れなくなってしまいました。救出されたのは3日目のこと。まさかと思える自宅での「遭難」で、生死を分けたものは何だったのでしょうか。

 浴槽から出ようと立ち上がり、左足をあげたとたん、右足がつるりと滑った。あっ、と思ったときにはざぶんと浴槽の中に倒れ込んでいた。

 5月14日ごろの夜だったと思う。ひざをしたたかに打ちつけてじんじんと痛む。しばらくぼうぜんとしたが、さあ、もう一度。立ち上がり、足をあげる。だが、高さ50センチの浴槽の縁がどうしても越えられない。手でひざを抱えて引き上げようとしても無理だった。

 お風呂には毎日入っている。出られないなんて、おかしいな。少し休んでもう一度足を上げたが、どうしても50センチより上がらなかった。

 5、6回繰り返したあとで、足が痛くて座り込んだ。

 秋吉さんは14階建てマンションの一室に一人暮らし。なんとか自力で脱出するしかない。

 浴槽にはなみなみと湯が張られ、だんだんのぼせてくる。まず湯を抜くことにした。

 からになった浴槽に座り込んでいるうち、今度は寒くなってきた。のども渇いてくる。シャワーからお湯が出ないだろうか。立ち上がってシャワーヘッドを手に取った。だが、蛇口には手が届かない。シャワーヘッドで蛇口を回そうと蛇口をガンガンと打ち付けたが、お湯は出なかった。

 「助けて」と大声を上げてみた。シャワーヘッドをさらにガンガンさせてもみた。だが風呂場には窓がなく、まわりには聞こえていないようだった。

 再び、座り込んだ。浴槽の底は硬くて、お尻が痛い。あっちへこっちへと向きを変えても痛みが増してくる。小便はそのまま垂れ流した。

頭がぼーっと、時間の感覚なくなる

 体中が痛い。のども渇いた。どうすればいいか、何も考えられない。頭がぼーっとして、時間の感覚がなくなってきた。

 断片的な記憶が次々と脳裏に浮かんでは消えた。数年前に亡くなった夫と一緒に出かけたアフリカの風景……。ライオンが音を立てながら獲物を食べている。また次の瞬間には、子どもの頃に祖母が人形を作ってくれた様子も思い出した。

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 ふと、同じマンションの2階…

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