第97回「ジャベリンなかった」最前線、報道と落差 愛国か命か、揺れる兵士
ロシア軍によるウクライナ侵攻が5カ月目に入り、とりわけ東部ではロシア軍が攻勢を強めている。大切なのは祖国の防衛か、それとも自らの命か――。戦闘の長期化で消耗戦が続くなか、揺れ動く気持ちを抱える兵士もいる。
「私はウクライナを愛しているし、祖国を守りたいと思っている。でも、ライフルで戦車とは戦えない」
6月、ウクライナ軍の30代半ばの男性兵士は、川沿いのカフェでそう漏らした。分厚い胸板に、短く刈り上げた髪の毛。時折、周囲を気にしながらも、淡々と話した。
男性は、ロシアとの国境に近い北東部の前線を一時的に離れ、1週間ほど休養するため、中部の工業都市ドニプロに滞在していた。
ドニプロは激戦が続く東部ドンバス地方、ロシア軍が占拠する南部ヘルソン州、再びロシア側の攻勢が強まる北東部ハルキウ州と、3方向から戦線と向かい合う場所だ。
2014年に親ロシア派勢力とウクライナ軍の戦闘が勃発し、親ロ派勢力が自らの支配地域で一方的に「独立」を宣言した東部ドネツク州の出身。紛争が長期化するなか、「健康な自分がレストランで酒を飲み、楽しんで暮らして良いのだろうか」と自問し、「愛国心」から軍に入った。燃料や食料などの補給物資を運ぶトラックの運転手として働いた。
2月24日にロシア軍の侵攻が始まると、前線で爆発物や対戦車地雷を仕掛けたり、塹壕(ざんごう)を掘る場所を偵察に行ったりする役回りとなった。実戦経験はないが、「ウクライナが置かれた状況を考えれば理解できた」という。
■過酷な任務、ロケット被弾で…