南の島で生まれた「ざわわ、ざわわ」 歌い続ける女性の絶望と希望

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国吉美香
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 10分余りの歌を歌い終えると、観客席は一瞬、静まりかえる。30年ほどソプラノ歌手を続けているが、拍手や歓声ではなく、必ず静寂に迎え入れられるのは、この歌だけだ。

 深い共感に包まれる感覚、祈りの結晶のようなものを全身で受け止める。

 寺島夕紗子(ゆさこ)さん(52)=東京都狛江市=は24歳のとき、初めてソロで歌い、とりこになった。

 ざわわ、ざわわ、ざわわ――。同じフレーズを66回繰り返す。感情にとらわれすぎず、淡々と。それがこの歌をつくったひとの教えだった。その教えを心がけるほどに、静寂は深く、平和を思う心が、観客にも自分にも育まれてきたという確信があった。

 しかし、今、その自負が大きく揺らいでいる。

 がれきの中に立ち尽くす人。薄暗い地下鉄の駅で、毛布にくるまる子ども。噴き上がる黒煙。連日テレビから流れるウクライナの映像が脳裏から離れない。

 〈昔海の向こうから いくさがやってきた〉

 歌詞を口にすると、今この瞬間に命を落としている人たちの姿が想像され、絶望にも近い無力感にさいなまれる。

 「さとうきび畑」。音楽家の父、寺島尚彦が作ったこの歌を、私が歌う意味はあるのだろうか。

 この歌が誕生したのは、夕紗子さんが生まれる2年前、1967年のことだ。

 幼いころ、東京の自宅2階の自室にいると、毎晩のように階下から聞こえてきた。父のレッスンを受けるために集った音楽家たちが奏で、歌っていた。

 「同じ歌ばかりであきないの…

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国吉美香
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    せやろがいおじさん
    (お笑い芸人・YouTuber)
    2022年6月23日19時4分 投稿
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    6月23日は沖縄に、とても大切な日「慰霊の日」。 沖縄は太平洋戦争で日本国内唯一の地上戦が行われた。日本軍は、上陸して来たアメリカ軍をできるだけ沖縄に足止めさせて、その間に本土での戦争準備を整えようと考えた。  沖縄本島に上陸し

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    木村司
    (朝日新聞社会部次長=沖縄)
    2022年6月21日11時44分 投稿
    【視点】

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