名刀・山姥切国広、地元へ「里帰り」 市長が意向「後世へ引き継ぐ」

根岸敦生

 栃木県足利市の早川尚秀市長は、足利で鍛造されたと伝わる国重要文化財の日本刀「山姥切(やまんばぎり)国広」を所有者から購入するなどの方法で市に里帰りさせる意向を示した。所有者からは市に管理を任せることに対して前向きな言葉が寄せられているといい、10日の市議会全員協議会で早川市長は「所有者の気持ちを大事にしながら、誠意をもった話し合いで詳細を詰めたい」と話した。

 「山姥切国広」は安土桃山期の刀匠・堀川国広が、足利を治めた長尾顕長のために1590年に作った。文化庁ホームページなどによると、今は千葉県内の個人が所有している。

 市によると、早川市長はこれまでに所有者と数回面会し、保管場所の確認などを重ねているという。

 早川市長は8日の市議会定例会一般質問で、議員から、文化資源を軸に観光振興を図る観点から「山姥切国広」の購入や寄託について考えを問われ、「所有者の意向を踏まえ足利市に里帰りさせたい。寄託、購入について、意思表示したい」と答えた。

 その後、所有者から「私たちの元で眠らせておくには『山姥切』の存在があまりにも大きくなり過ぎて正直守り切れなくなっている。信頼できる足利市にお任せするのが一番良いのではないかと思っている」などとするメッセージが送られてきたという。10日、このメッセージを公表した早川市長は「責任をもって後世へ引き継いでゆきたい」と述べた。

人気ゲームで擬人化も

 「山姥切国広」は、人気ゲーム「刀剣乱舞」で、擬人化されたキャラクターのひとりとして登場する。

 足利市美術館が2017年に約1カ月展示した際は約3万8千人が来場。今春の公開時は、新型コロナ感染防止で入場制限をかけたが約1カ月半で約2万5千人が訪れた。市は両展示期間中の経済効果を計約9億円に上ると試算している。

 「山姥切国広」は南北朝期の備前長船長義の「本作長義」(徳川美術館蔵、国重要文化財)の写しとして造られた。「山姥切」の銘は、大正年間に取られた「押形(スケッチ)」の周囲に、当時の所有者の言葉として「後北条家の浪人石原甚五左衛門が信州小諸で、宿を借りた老婆に我が子を食い殺されたので、この老婆を切り捨てたのが由来」とあることによる。ただ「本作長義」にも同様の伝説があり、文化庁の調書では「いわれは不明」としている。

 市側は今後購入することになった場合は市の財源に加え、クラウドファンディング(CF)の利用や、足利市民文化財団の財産の活用を検討する考えを示している。「山姥切国広」と同じ年に堀川国広が足利学校で作成した脇差し「布袋国広」は1989年に2750万円で同財団が取得している。

 自治体がCFを利用して日本刀を購入した例では、刀の産地として知られる備前長船のある岡山県瀬戸内市がある。上杉謙信、景勝親子の愛刀「山鳥毛(さんちょうもう)」が製作された同地への「里帰りプロジェクト」で、購入費5億円に対し、約8億8千万円の寄付が集まった。(根岸敦生)…

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