新型コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻など、これまで「当たり前」だった風景が揺らいでいます。私たちの社会が歩む道はこのままでいいのか。他に進むべき道はないのか。様々な政策課題を通し、そのジレンマや選択肢の可能性を考えます。今回は食料自給編です。
「食料自給率」100%にした日本の食事とは…
●朝食
食パン半切れ(8枚切り)
焼きいも(サツマイモ)2本
サラダ2皿
リンゴ5分の1個
●昼食
焼きいも2本
粉ふきいも(ジャガイモ)1皿
野菜炒め2皿
●夕食
白米1杯
粉ふきいも1皿
浅漬け1皿
焼き魚が一切れ
これは一昔前の日本の食卓ではありません。日本の農地をフル活用して得られた食料だけを皆が食べる状態、つまり「食料自給率」を100%にした際のメニューです。農林水産省が実際に公表しているものです。
「食料安全保障」。ロシアのウクライナ侵攻を機に、こんな言葉をよく耳にするようになりました。2020年度の日本の食料自給率(カロリーベース)は37%でした。食べ物の多くを海外からの輸入に頼っています。世界的な人口爆発や気候変動による農作物の不作など、すでに食糧難を予測する声はありました。ウクライナ危機によって、現実味はさらに増しています。
4月にはインドネシアがインスタント麺の製造などに使われるパーム油を、5月にはインドが小麦をそれぞれ輸出禁止にしました。実際に自国の国民を守るために食料の囲い込みが起きているのです。一方、8割以上を輸入に頼る小麦など、日本ではさまざまな食品の値上げが発表されています。
こうした状況に、自民党は食料安保に関する検討委員会を立ち上げました。委員長の森山裕衆院議員は「いまの情勢は好転する兆しがない」と発言。食料自給率のあり方など長期的な課題について議論を続けるとしています。
岸田文雄首相は今月1日、国会で「食料の安定供給の確保は国民に対する国家の最も基本的な責務のひとつ」と述べました。食べ物は私たちが生きていくのに欠かせません。いざというときに手に入らない事態になる心配はないのでしょうか。生活の便利さを少し犠牲にしてでも、自給率を上げるべきなのかを考えてみます。
農業そのものが「輸入」に依存
自給率は、統計を開始した1…
- 【視点】
「ナントカ安全保障」ほど、恣意的な議論になりがちなものはない。国の安全がかかっているとなると、経済合理性が置き去りにされたりするからだ。 日本では、食料安全保障というと、外国からの輸入をなるべく減らして自給率を上げるという話に終始すること
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