CGアニメの傑作を振り返る記者サロン、あの監督の初期作品も上映

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 自主制作CGアニメの傑作とその歴史を振り返る記者サロンが6月5日、朝日新聞大阪本社アサコムホールで開かれました。朝日新聞の富岡万葉記者の司会で、1988年から「CGアニメコンテスト」を主催している団体「DoGA」代表の鎌田優(ゆたか)さん(58)が入選作を紹介しました。富岡記者が当日の模様をお伝えします。

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 記者サロン「アニメ監督が生まれるトコロ~自主制作CGアニメの世界~」は7月4日(月)まで見逃し配信を無料で視聴できます。お申し込みは次のサイト(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11007660別ウインドウで開きます)で。記事とあわせて、ご覧ください。

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 雨もちらついた5日、大阪市北区の朝日新聞大阪本社12階にあるアサコムホール。鎌田さんは登場するやいなや、参加者にクイズを出題した。「このアニメを作ったのは?」。名前を挙げたタイトルは「エヴァンゲリオン」「君の名は。」「サマーウォーズ」。これはすぐにわかる。それぞれの監督は、庵野秀明新海誠細田守だ。

 次の質問は「アナと雪の女王」「トイ・ストーリー」「シュレック」。いずれも米国の作品で、制作会社は何となく答えられるけど、監督名は……。これが鎌田さんの狙いで、「日本では監督の個性や作家性が重視されている」と言う。

 ここで、CGアニメコンテストの入選作を上映した。田村鞠果さんの「Final Deathtination」(2021年制作)と、井上涼さんの「赤ずきんと健康」(07年)。田村さんは米国でCGアニメを学び、井上さんはNHK・Eテレの人気番組「びじゅチューン!」で活躍中だ。二つの映像は全く異なる作風だが、「技術と個性はいずれも魅力的で、比較するものではない」と鎌田さんは話す。

 では、どのように日本のCGアニメは監督ごとに全く異なる作風を得ることになっていったのか。鎌田さんがCGアニメの歴史を振り返った。

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 鎌田さんは大阪大に在学中の1985年、大阪大と京都大のコンピュータークラブの仲間とともに、CGアニメの研究プロジェクト「DoGA」を立ち上げた。

 当時のパソコンの性能だと、CGアニメを作るには、10秒のシーンに10時間がかかるほど。DoGAはこれを簡略化できるシステムを開発し、パソコン雑誌のおまけなどとして一般に無料で配布した。88年にはCGアニメコンテストを始め、個人がCGアニメを制作できる環境を広めていったそうだ。このコンテストは昨年、30回を数えた。

 会場で初期のCGアニメを上映すると、球体が転がったり、跳ねたりするような作品が登場した。これも、渡辺哲也さんの入選作「超獣ロボ リューセイバー」(1996年)でがらりと雰囲気が変わる。3Dでありながら手書き(2D)のように見せる手法「セルシェーディング」を実験的に採用した作品だ。

 渡辺さんは3DCGディレクターとして現在も様々な作品で活躍中だ。渡辺さんが手がけたセルシェーディングの技術は、TVアニメ「鬼滅の刃」などにも受け継がれている。

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 CGアニメが技術的な高まりを見せる一方、「2000年前後になって、特に作家性に優れた作品が次々と生まれた」という。CGアニメコンテストで入賞経験があるトップクリエーターを紹介した上で、鎌田さんは「自主制作アニメを変えた3人」として、ロマのフ比嘉、新海誠、吉浦康裕監督の名前を挙げた。

 それぞれのコンテスト入選作となる「ONE DAY,SOME GIRL」(1996年)、「彼女と彼女の猫」(99年)、「水のコトバ」(2002年)を順に全編上映すると、どれも個性あふれるストーリーが光る作品となっている。比嘉さんはTVアニメ「いとしのムーコ」、新海さんは映画「君の名は。」、吉浦さんは映画「アイの歌声を聴かせて」など多くの作品で活躍を続けている。

 鎌田さんは「初期は単なるサンプル映像に過ぎなかった自主制作CGアニメは、こうして映像の一つのジャンルとして確立された」とまとめた。最後に昨年のコンテストで審査員全員が満点をつけた伊藤瑞希さんの「高野交差点」を上映し、会場の参加者から拍手が送られた。

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 今回の記者サロンには会場とオンライン同時視聴あわせて200人以上から参加の申し込みがあった。記者サロンの終わりには、事前に寄せられた質問に鎌田さんが答えた。

 CGアニメコンテストを設立した理由を問われて、鎌田さんは「作家が制作する目標になるから」と説明した。コンテストには厳密な審査要項があるものの、才能を発掘するための「営業機密」だと言う。「基準はコンテストごとに違う。一度落ちても諦めず、いろんなコンテストに応募してください」と呼びかけた。

 小学生の子を持つ保護者から「今からしておくといいこと」を聞かれ、「クリエーターはみんなとは違う個性がいくらあるかが勝負。ただ、みんなが好きなことの逆を目指すのは自分の個性ではない。基本的には思う存分好きなようにさせてあげるのがいいと思います」とアドバイスしていた。(富岡万葉)

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 記者サロンで上映した作品は次の通り(紹介順。冒頭のみ上映の作品も)

 田村鞠果「Final Deathtination」

 井上涼「赤ずきんと健康」

 鳥取大学電子計算機研究会「TEAM ART」

 鎌田優「冬の終わる夜」

 渡辺哲也「超獣ロボ リューセイバー」

 TVアニメ「ロスト・ユニバース」(CGパート)

 ロマのフ比嘉「ONE DAY, SOME GIRL」

 新海誠「彼女と彼女の猫」

 吉浦康裕「水のコトバ」

 山岸剛朗「絶対無双麻雀マン」

 杉本晃佑「これくらいで歌う」

 安田現象「メイクラブ」

 川尻将由「ある日本の絵描き少年」

 伊藤瑞希「高野交差点」

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