壁を埋め尽くす499体 「悟り得た聖者の視線」に記者身動き取れず
土蔵造りのお堂に一歩足を踏み入れた瞬間、張り詰めた静寂さと、無数の視線に射抜かれて、しばらく身動きが取れなくなる。
岩手県盛岡市名須川町、報恩寺の羅漢堂。来訪者の心を見透かすように、周囲の壁をぐるりと埋め尽くしているのは、「五百羅漢」と呼ばれる仏像だ。
1731年(享保16年)から4年間かけて、9人の仏師によって京都で作られた。当初は500体が納められたが、現在は499体が残っている。
台座はすべて箱形で、その裏側の文字から、輸送の際に用いた箱が使われているとみられている。
羅漢とは悟りを得た聖者を意味し、「五百」とは数と同時に「多数」を表す。
木彫の上に漆が塗られ、金箔(きんぱく)で仕上げられた仏像たちは、実に様々な表情を見せている。
泣き、笑い、嘆き、悲しみ、怒り、苦しみ、いらだち……。来訪者に向かって何かを訴えかけようとしているように見える仏像もあれば、一人居眠りをしたり、隣と楽しそうに世間話に興じていたりするように見える仏像もある。
5月5日の「こどもの日」には、数組の親子連れの姿があった。男児が「これ、パパに似てるね」と、酒を飲んで笑っているような羅漢像を指さして笑う。
「こっちはママだね」。男児が指さした中央板の間の天井を見上げると、そこには周囲ににらみをきかしているような、竜の絵が描かれており、周囲から小さな笑い声が起きた。