「カナダは出産無料」子育て費用はだれが負担? 東大教授の答えは

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聞き手・久永隆一
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 出産費用が増え続けています。経済的な負担を減らすための「出産育児一時金」を今の42万円から3万円程度引き上げを――。そんな要望を自民党の議員連盟が政府に出しました。一方、東京大学大学院教授の山口慎太郎さん(46)は「うちの子は10年ほど前、カナダで生まれましたが、費用はゼロでした」と話します。出産費用にとどまらず、子育て費用は誰がどう負担するのが望ましいのでしょうか。国内外の子育て政策を研究している山口教授に専門家の視点を聞きました。

やまぐち・しんたろう

 結婚、出産、子育てなどを経済学の手法で研究する「家族の経済学」などが専門。2019年より現職。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書、第41回サントリー学芸賞)、『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。

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「おなか」にいる時から支援は始まる

 ――出産育児一時金は引き上げるべきでしょうか。

 東京など都市部では42万円では足りません。持ち出し(自己負担)のないところまで、引き上げる必要があるでしょう。

 出生率の向上といった少子化対策のためというより、子どもへのサポートとしてです。

 ――どういうことですか。

 子どもへの支援は胎児期から始まっています。ノルウェーの研究によると、経済的に困っていることで、母親が妊娠中にストレスを感じたり、栄養不足に陥ったりすると、胎児が大人になった時の健康状態や就業率、高校卒業率などに良くない影響が出やすいという結果があります。

 ですから出産費用の心配をしなくて済むようにした方が子どものためになるというわけです。

 ――出産を公的な医療保険の対象に加えるのはどうですか。

 私は保険の対象にした方がよいと考えます。仕事でカナダのオンタリオ州にいるとき、私の子どもが生まれたのですが、出産費用は公的医療保険の対象になり、無料でした。

 ――日本の場合、公的医療保険は病気やケガを前提にしています。出産は対象外とされる理由です。

 さきほど言ったように胎児期は子どもの将来の健康にも関わります。日本で生まれる子どもたちに最低限保障される医療サービスとして捉え、保険の対象に加えることを検討すべきではないでしょうか。少なくともカナダ(オンタリオ州)のように保険が使えるところもあるわけですから。

だれもが「よその子」に支えられる

 ――出産費用は社会で分かち合う、と。

 子どもは社会の財産です。なにも、きれいごとを言っているわけではありません。子どもがいない人も含め、誰だって引退世代になりますね。

 年金、介護、医療。これらの費用の多くを負担してくれる現役世代は、ぶ厚い方がよい。「あなたの子」がいなくても「よその子」にみんな、支えてもらうのです。

 子どもへの投資は消えるお金ではありません。やがて大人になり、税金や保険料を納めて、引退世代のあなたを支えてくれます。

 ――子育て支援策では、給付金などで所得制限のあり方が議論になっています。

 「もらえる人」と「もらえな…

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