「2018.3.2」を覚えてますか ラッパー般若さんが綴った事件

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三浦淳
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 ラッパーの般若さん(43)が3月2日、児童虐待をテーマにした楽曲を発表した。リリック(歌詞)を書くまで約3年半かかったという。タイトルは、リリース4年前の日付から「2018.3.2」とした。何の日か、覚えていますか――。

 その曲は、ピアノの優しい音色で始まる。リリックは、ありふれた春の「日常」を想起させる。

 《もう少しで春 1ケ月後にゃ桜か…》

 般若さんは4年前、閑静な住宅街のマンションに住んでいた。スーパーへの買い物、犬の散歩、友人との談笑……。

 「普通の生活をして、普通に笑っていた」

 そんな街だった。

 2018年3月2日、金曜日。

目撃した「異常な光景」

 マンション前に消防車と救急車が止まった。隊員は、向かいの古いアパートに駆けつけた。

 女の子が担架に乗せられ、運ばれた。毛布が掛けられていたが、足がガリガリにやせていたのが分かった。

 顔も見た。土色だった。

 そばには、赤ちゃんを抱えた女が立っていた。目はうつろ。救急隊員が向かった部屋のベランダでは、「ふくれっ面」の男が何かを叫んでいた。

 「異常な光景。やばいことが起きたと分かった」

 子どもがコンセントを触った「感電事故」か、とも思った。だが、数時間後、刑事が訪ねてきた。「予想していた最悪の結末」を悟った。

 虐待事件だった。

 亡くなったのは、東京都目黒区の船戸結愛ちゃん。当時、5歳。亡くなる直前、ノートの切れ端に「もうおねがい ゆるしてください」と書き残していた。

 リリックにはこんなくだりがある。

 《痛かったね 寒かったね お腹空(す)いたね 違う形で会いたかったね そこに居た事知らなかった》

 偶然、目撃した結愛ちゃんへのいたわり、事件への戸惑い……。般若さんは取材に対して、ラップと同じように落ち着いた声で切々と、「知らなかった」ことへのやるせなさを語った。

 現場には翌朝から、マスコミが殺到した。結愛ちゃんを悼む親子連れが電柱に菓子やジュースを供えた。

 それも、朝にはカラスが食い散らかしていた。スマートフォンで事件現場を撮影するやじ馬もいた。

 次第に、誰も来なくなった。一見すると、街は普段通りに戻った。

 「この感じ、何だったんだろう」

 東京都目黒区で2018年3月2日、両親から虐待を受けていた船戸結愛ちゃん(当時5)が亡くなりました。結愛ちゃんの当時の体重は、同年代の平均体重(約18キロ)を大きく下回る12.2キロ。自宅アパートからは、結愛ちゃんが「もうおねがい ゆるして」などと平仮名で書いたノートが見つかりました。記事の後半では、事件を目撃したラッパー・般若さんの楽曲制作までの葛藤や、児童虐待根絶を願う思いを紹介します。

俺はいい人じゃないし、社会派でもない けど…

 何度か曲にするか考えた。ノートを開いて、ペンを持った。

 「衝撃、残酷さ、怖さ、ひど…

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