NATO東方不拡大、約束はあったのか 「1インチ発言」与えた言質

有料記事ウクライナ情勢

構成・田島知樹
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 北大西洋条約機構(NATO)は東ヨーロッパや旧ソ連諸国への「東方不拡大」を約束したのか。ロシアと欧米の間で長らく論争の続いている問題が、ロシアによるウクライナ侵攻で再び注目されている。

 その起源はドイツ統一交渉にまでさかのぼる。プーチン大統領は、NATOを東方に拡大しないという東西陣営間の約束があったと主張するが、実相はどうなのか。ドイツ統一の交渉過程に詳しい神奈川大学の吉留公太教授(国際政治史)に聞いた。

 よしとめ・こうた 1974年生まれ。著書に『ドイツ統一とアメリカ外交』。

 研究上の通説は、1989年11月にベルリンの壁が崩壊した後のドイツ統一交渉の過程で、NATO東方不拡大に関する明示的な約束はなかったというものだ。しかし、西側がソ連軍の東ドイツ撤退などを説得しようとした際、交渉の場でいくつかの発言がなされ、後々まで続く問題を生み出すことになった。

 例を挙げると、90年2月9日に米国のベーカー国務長官はソ連のゴルバチョフ書記長に対して「NATO軍の管轄は1インチも東に拡大しない」と発言した(1インチ発言)。翌日、西独のゲンシャー外相やコール首相も訪ソして同趣旨の発言をしている。NATOのヴェルナー事務総長も同年5月に「NATO軍を西ドイツの領域の外には配備しない用意がある」と演説した。

 これらの一連の発言はその後、東西両陣営で様々な解釈がなされることになります。

 旧ソ連や米独の史料を用いた…

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    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2022年4月22日14時15分 投稿
    【視点】

    「政治家が歴史解釈を主張する背後には政治的な動機が必ずある」ー冷戦終焉の過程を膨大な資料に基づき、丹念に検証した大著『ドイツ統一とアメリカ外交』の著者、吉留公太氏の警鐘は重要だ。 ロシアによるウクライナ侵攻以来、冷戦終焉の過程で、欧米

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