「ロシア作戦」偽情報にアノニマス困惑 元メンバーが初めて語る内幕
3月1日、あるメッセージがツイッターに投稿された。
「私たちは(ロシア国内にある)原子炉のモニタリングシステムをハッキングした」
投稿者のアカウント名は「ウクライナのアノニマス(Anonymous)」。政治的な主張に基づく行動(ハクティビズム=hacktivism)を掲げ、過去に各国の政府や企業に対し、サイバー攻撃を仕掛けてきた国際ハッカー集団「アノニマス」と同じ名前だった。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった翌日の2月25日、アノニマスの公式ツイッターは「私たちの作戦はロシア政府をターゲットにしている」と表明。「#OpRussia(ロシア作戦)」と名付け、ウクライナ支援の立場を明確にした。
原子炉のモニタリングシステムをハッキングしたとする報告も、作戦の一環だとして投稿されたものだ。ところが、アノニマスの公式ツイッターは反応した様子はなかった。
それには理由があった。
ある日本人男性の活躍
海外の企業に勤めるある日本人男性は、投稿の中身から、原発のモニタリングシステムだとするサーバーを特定した。
アクセスすると、確かに複数の機器を管理するような画面が表示された。機器の温度を示す赤色のバーが伸び縮みしていた。
何を計測しているのか。サーバーに侵入し、赤色のバーの正体を探った。適当な時間の間隔で、バーが伸び縮みするプログラムが動いていた。原子炉のモニタリングとは関係なく、「ハッキング」は偽情報だった。
翌日、別のアノニマスのツイッターアカウントが、この偽情報の存在を指摘した。「偽アカウントが原子炉をハッキングしたという偽ツイートを作成した」
そして、こうも呼びかけた。
「ロシア作戦の開始後、自分の利益のためにアノニマスの名前を使い、注目されようとする多くの人たちがいる」
「偽アカウント」は数日後、ツイッター社によって凍結された。
偽情報を突き止めたこの日本人男性はかつて、アノニマスの中核メンバーだった。
2006年ごろに活動を開始したアノニマスは、インターネット上の自由を制限する動きに対抗し、賛同した世界中の有志たちが参加。抗議の対象とした各国の政府や企業に対し、サイバー攻撃を仕掛けてきた。
それが10年から11年にかけて、中東で起こった民主化運動「アラブの春」をきっかけに、ハクティビズムへの動きが本格化する。チュニジア政府やエジプト政府のサイトにサイバー攻撃を仕掛け、市民の反政府デモなどを支援した。
その後も欧米の政府機関やNATO(北大西洋条約機構)、ブラジル、ジンバブエなど国や政治体制に関係なく、サイバー攻撃で抗議の意思を表明した。男性が中核メンバーとして参加していたのは、そのころだという。
男性はこれまで、アノニマスとして活動していたことを誰にも明かしたことがなかった。今回、初めて取材に応じた思いをこう語った。
「元アノニマスがアノニマスのオペレーション(作戦)を検証する。フェイクが氾濫(はんらん)するなんて、自分たちの時代とは異なるありえないことが起きている」
当時のメンバーたちはいま、ある匿名のチャットスペースに再び集まっているという。それはロシア作戦を宣言したアノニマスへの「違和感」からだった。
水面下でいったい何が起きて…
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- 【視点】
自らもエンジニアとしての経験があり、高い専門性を持つ須藤龍也編集委員ならではのディープな記事です。サイバー空間というとピンとこない方もおられるかもしれませんが、ハクティビズムという言葉からさらに派生するハクティビストという言葉を思い浮かべる
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