「スペック」競争に熱中する若者たち 格差社会・韓国の現実とは

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聞き手・大部俊哉
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 9日に大統領選の投開票日を控える韓国社会で深刻な課題になっているのが、貧富の格差です。文在寅(ムンジェイン)政権は格差の解消に向けて、暮らしや雇用の問題で何を目指し、そしてそれらは実現できたのでしょうか。また、新政権に求められているものとは――。韓国の労働市場社会保障に詳しいニッセイ基礎研究所の金明中・主任研究員に聞きました。

 ――韓国では、貧困率の高さが問題になっていますね。

 相対的貧困率(所得がちょうど中間の人の半分未満の割合)は16・7%で、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で4番目に高い水準です。特に、高齢者の貧困率が高いのが特徴です。17歳以下が12・3%なのに対し、高齢者は43・4%に達しています。

 理由の一つが、国民年金制度の歴史がまだ浅いことです。1988年に始まり、「国民皆年金」まで拡大したのは99年でした。まだ20年余りしかたっていません。そのため、加入期間が短かった今の高齢者はもらえる金額が少ないのです。退職後に自営業を始める人も少なくないですが、うまくいく人は一部に過ぎません。高齢者の貧困を加速させた要因です。

 ――なぜ年金制度の導入が遅かったのでしょうか。

 経済成長を優先させたためと考えられます。年金を導入すれば企業の負担が増えます。企業の負担が増えると経済成長が鈍くなるという配慮があったのでしょう。しかし、88年のソウル五輪を機に、まずは大企業を対象にした年金制度をスタートさせました。すでに他の五輪開催国の間に年金制度が普及していたことから、国際情勢に合わせた形です。その後、段階的に対象を拡大しました。

 ――格差の深刻化が指摘されています。

 わかりやすいデータがあります。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏らが運営する「世界不平等研究所」によると、韓国では21年の上位1%の富裕層の所得が全所得に占める割合は14・7%です。上位10%で見ると、全体の46・5%を占めています。それだけ富裕層と低所得者層の格差が大きいことがわかります。

 ――企業の賃金にも格差が表れていますね。

 韓国社会で格差が大きな問題となっているのは、大企業と中小企業、正規労働者と非正規労働者の賃金水準の差が、いずれも広がっていることが大きな要因です。大企業に対する中小企業の賃金水準は、韓国雇用労働部のデータによると00年に65・0%でしたが、21年には54・5%まで下がっています。ほぼ半分です。また、正規労働者に対する非正規労働者の賃金比は21年で53・0%と、これも約半分です。

 ――非正規労働者の増加は、格差拡大の大きな要因とされています。

 97年のアジア通貨危機が大きく影を落としました。ウォンが暴落し、金利が上昇すると企業の倒産が相次ぎ、街には失業者があふれました。特に若者(15~29歳)の失業が目立ち、これ以降、正規職の代わりに非正規職を増やす企業が増えました。04年以降は、労働者全体に占める非正規労働者の割合は30%台で緩やかに下降する状態が続いていましたが、文在寅政権になってから増加しました。17年に32・9%だった割合は20年には36・3%まで上がっています。

留学する人は日本の2倍

 ――文政権は正規職の割合を増やすことを公約に掲げていましたが、なぜ逆に非正規職が増えたのでしょう。

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 文政権は雇用を増やすために…

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この記事を書いた人
大部俊哉
マニラ支局長|東南アジア・太平洋担当
専門・関心分野
安全保障、国際政治、貧困問題
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    おおたとしまさ
    (教育ジャーナリスト)
    2022年3月6日18時1分 投稿
    【視点】

    「日本で言う『親ガチャ』に当たる『スプーン階級論』や、『ヘル(地獄)朝鮮』といった格差への不満を示す言葉が流行しました」と。学歴の差がなくなり、スペックでの勝負になっていると。日本も似たような状況だ。そのための“教育”が低年齢化している。

    …続きを読む