ロシア国境まで800メートル ウクライナの村、交錯する楽観と不安

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ストリレチャ村〈ウクライナ東北部〉=国末憲人
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 ロシア軍の侵攻が取りざたされるなかで、ロシア国境に面したウクライナの村は、静寂に包まれていた。「戦争があるなんて信じられない」と多くの村人は言う。ただ、国家間の緊張は高まる一方で、戸惑いや不安も広がっている。

 ロシア侵攻の可能性が高まったとして、バイデン米大統領がウクライナからの米国人退避を呼びかけた10日、ウクライナ北東端のストリレチャ村は、いつも通り平穏だった。

 ウクライナ東部の中心都市ハリコフから車で約1時間。人口約1600人の村は、ロシア国境まで800メートルしかない。雪でぬかるむ村の広場に立つと、すぐ正面にロシア領の並木が見えた。

 ハリコフは、ロシア軍の大規模侵攻があると真っ先に標的となるとみられており、その途中にあるこの村も戦場になりかねない。

 しかし、点在する旧ソ連時代のアパートの住人に、緊張感はうかがえない。

 「5階のうちの窓からは、ロシア国内がよく見える。でも、兵器なんか全然ないよ。戦争なんてうそっぱちだね」

 村の看護師の女性スベトラーナさん(47)は、ロシア軍侵攻の可能性を信じようとしなかった。「米国の言うことより、ロシアの言うことの方が信頼できる」

 年金生活者の女性リュボフさん(70)も「ロシア側はずっと落ち着いている。戦争は全然心配していない」と言う。一方で「もし戦争になったら、どこにも逃げるところがない。子どもたちの安全が心配」。

 村の別の女性(70)は「戦争は不安だが、何の音も聞こえてこないし」。若いころは両側ともソ連で、行き来は自由だった。「ベリー狩りやキノコ狩りで、よくロシア側に行ったものだ。向こう側の松林ではキノコがたくさん採れる」

 この地方の人々の楽観的な見方について、犯罪小説作家としても知られるハリコフの弁護士アレクサンドル・チュマコフさん(56)は「多くの人はロシア側にも親戚がいる。私の父もロシア南部ロストフに暮らしている。そんな国同士が戦争をするなんて、信じたくないのです」と説明する。農村部だけでなく、都市のインテリらの間でも、侵攻は起きないと考える人が多いという。

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戦争の可能性を否定する市民がいる一方で、緊張感が高まっている都市もあります。予想できないのは、仮にロシアが街を占領した後に何が起きるかだといい、ある市民は「本当に怖いのは、戦争ではなくロシア」と語ります。

 この村には1100床のハリ…

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