面白くない仕事、幸せですか 森永卓郎さん「低所得でも幸せな人も」

聞き手・丸山ひかり
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 今の時代に「好きなこと」を追求する意味とは何か。20年以上前から日本の「一億総中流」の終わりと格差拡大を見すえ、所得が少なくても好きなことをして生きようと、著書などで呼びかけてきた経済アナリスト・森永卓郎さん(64)=所沢市=に聞いた。      

 この30年の格差拡大といえば、資産や所得に焦点があたりがちですが、「仕事の楽しさ」の格差は、それらよりももっと広がったと私は考えています。

 かつて日本企業は、現場の裁量が比較的大きかったといえます。でも、グローバル資本主義が広がるなかで生産性を上げる必要に迫られ、多くの仕事がマニュアル化されていきました。生産コストは下がったかもしれませんが、仕事はつまらなくなりました。

 私の最大の疑問は「面白くない仕事に従事するのは幸せか」ということです。

 賃金は上がらず、疲れて帰った狭い部屋で、スマホをいじって1日を終える人も多いのではないでしょうか。また、マニュアル化された仕事はあと十数年のうちに、人工知能に置き換えられてしまうはずです。

 では、その時どんな仕事をすればいいのでしょうか。

 私は、資産運用に血道を上げたり、嫌な会社にしがみつく「資本の奴隷」を続けたりすることではなく、自分の創造性を生かして好きなことをする「アーティスト」になることをお勧めします。

 投資で巨額の富を築くことに憧れる若い人も多いですが、私が出会った投機家の中には資産が数百億円になっても満足できず、お金を増やすことでしか幸せを感じられない人がいました。そして「いつお金が減ってしまうのか」と不安にさいなまれていました。

 みんなが「資本の奴隷」を続ければ、新しい挑戦をせず付加価値が生まれないので国全体が沈みます。日本はこれを30年間続けた結果、平均賃金はほぼ上がらず韓国に抜かれました。

 だからこそ、はたからみれば変わったことをしている「アーティスト」の分厚い層を増やし、「創造の海」からポンと新しいものが出てくるようにすることが、重要だと思います。

 大当たりしない限りお金にならない可能性もありますが、生きるために必要最低限のモノを確保するコストは下がっているし、うまくいかなくても本人は不幸ではないと思います。

 1990年代末、私は俳優やカメラマンなどを取材し「痛快ビンボー主義! 『中流』が消えた後の生き方」という本を出しました。彼らはものすごく所得格差のある世界の住人でしたが、所得が低くても幸せだと感じていました。

 いきなり仕事にしようとこだわる必要はなく、空き時間で少しずつ好きなことをやってみることから始めればいいと思います。農業でも、何でもいいでしょう。

 静岡県内のある青果店は余った果物を透明なゼリーにつめて売り出し大繁盛していますが、すごくきれいなゼリーで、社長に「あなたの仕事は何ですか」と聞いたら「フルーツアーティスト」だと言っていました。そんな感じでいいんです。

 みんなが「奴隷」から抜け出そうとすることが、日本にとっての新たな希望になると思います。

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この記事を書いた人
丸山ひかり
文化部次長
専門・関心分野
美術、音楽、表現の自由