「子どもは家庭でお母さんが…」 こども家庭庁を選んだ政治家の意識
子ども政策の司令塔として新たにつくる省庁名を、政府・与党は「こども家庭庁」とすることで一致した。当初、政府が自民党側に示していたのは「こども庁」だった。名称が突如として変わった背景に何があったのか。
15日午後、自民党本部7階の会議室。「こども・若者」輝く未来創造本部などの合同会議で、座長を務める加藤勝信・前官房長官がこう理解を求めた。
「子どもは家庭を基盤に成長する。こどもまんなか政策を表現しつつ、『こども家庭庁』とさせてほしい」
会議では「こども庁」のままで行くべきだとの意見もあったが、「『こども家庭庁』とすべきだという意見が大半だった」(出席したベテラン議員)という。合同会議は最終的に、「こども家庭庁」とする案を了承した。
菅前政権下で、子どもを中心に置いた社会をめざして持ち上がった「こども庁」の構想だったが、岸田政権で急転直下、名称が変わった。背景にあるのが、子育ては家庭が担うべきだという党内の根強い声だった。特に伝統的な家族観を重んじる議員らは、「こども家庭庁」にすべきだと主張した。
ベテラン議員「家庭の文字が入るのは当然」
1週間前の今月8日にあった党青少年健全育成推進調査会(中曽根弘文会長)の会合では、第1次安倍政権の教育再生会議にかかわりのある「親学推進協会」の高橋史朗会長が講演し、「こども家庭庁に改めるべきだ」と主張した。この会合に出席した議員は「こども家庭庁」にこだわる理由について、「最近は学校に行かない権利を唱える子どももいるようだが、権利ばかり唱えても(よくない)。青少年が健全に育つには家庭がしっかりしている必要がある」と語った。
参院のベテラン議員は「子どもは家庭でお母さんが育てるもの。『家庭』の文字が入るのは当然だ」と言う。党の政策責任者である高市早苗政調会長も「こども家庭庁」案を推し、官邸側に働きかけていたという。
しかし、「こども家庭庁」を要求していたのは、こうした自民内の保守系の勢力だけではない。
公明党は10月の衆院選で「子ども家庭庁」という名称を公約に掲げていた。党幹部によると「家庭庁」とするようたびたび自民党側に求めていたという。公明幹部は「自民党内の『保守派』とは同床異夢かもしれないが、最終的には『家庭』とついた方が収まりがよかったのだろう」と振り返った。
また、旧民主党が「子ども家庭省」の構想を掲げたという経緯もある。
一方、自民党内には、両親がいない子どもたちや、親からの虐待に苦しむ子どもたちにも配慮すべきだとして、「こども庁」を推す意見もあった。参院議員の山田太郎氏は「こどもには不登校やいじめの問題もある。学校で起きている問題を(こども)家庭庁という省庁が扱うのは妙だ」として「こども庁」を主張していた。最終的にはいじめの問題も「こども家庭庁」と文部科学省が担うことになったという。
こども家庭庁を担当する野田聖子少子化担当相は今月17日の会見で、「こども家庭庁」の名称について「国が家庭を支えていこうとか、(国が)自ら家庭になって子どもを真ん中に置いて支えていこうという趣旨に受けとめていただければいい」と語った。
ただ、政治家が主導した名称変更を苦々しくみる当事者もいる。
自民党の会合で児童虐待を受けた経験を語り、「こども庁」の名称が生まれるきっかけをつくった風間暁さんは「家庭にこそ苦しめられている子どものことも考えて、『こども家庭庁』なのか。子どもをはじめ、当事者や関係者がいないなか、政治家だけがいる部屋で名称を変える話があっさり決まってしまった」と話す。
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「しかし、最終的にはいじめの問題も『こども家庭庁』と文部科学省が担うことになったことで、納得したという」という記述のうち、「しかし、」「ことで、納得した」を削除します。確認が不十分でした。訂正しておわびします。記事は修正済みです。
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