つまようじ数万本で作った城の模型 定年後、焦らずコツコツ11年

吉村駿

 つまようじを材料に、彦根城や松江城などの模型を作る愛好家が滋賀県近江八幡市にいる。退職後に趣味として始めたという佐藤成宣(しげのぶ)さん(74)。城の石垣からしゃちほこまで細部にもこだわるが、使うのはすべて市販のつまようじ。11年間作り続けており、つまようじから学んだことがあるという。

 職人経験の無い佐藤さん。60歳で滋賀県内の企業を定年退職してから、「つまようじ作品」にのめり込んだ。きっかけは、新たな自分探しだった。

 「最近写真に挑戦しているんだ」「絵を習い始めたよ」。定年退職を迎えた友人らは、新たな生きがいを見つけて楽しんでいた。佐藤さんも、「退職後の人生、自分も何かに挑戦しようと思っていた」と当時を振り返る。

まずは「自宅」に挑戦

 そんなある日、食後にたまたま目に留まったのが、つまようじだった。先端の数ミリしか使われず、わずか数秒で役目を終える。仕事で機械設計の経験がある佐藤さんは、「今まで何も考えずに使っていたが、よく見るとつまようじは立派な木材。これで何か作れるな」とひらめいたという。

 インターネットで、つまようじを部材にした作品を調べたが、前例が無いのか何も出てこない。そこで、最初に挑戦したのが「自宅」。設計図があり、自宅のことは自分が一番詳しい。佐藤さんは「初挑戦なので、ゴールがイメージしやすいのが自宅だった」。

 約5千本のつまようじを購入。先端部分を全てカッターで切り落とし、木工ボンドでつなげていった。設計図を元に、屋根や外壁を作り上げ、組み立てていった。約1年かけて、高さ26センチ、幅30センチの「つまようじの自宅」を「竣工(しゅんこう)」させた。

 「つまようじの自宅」を見た友人たちからは、「そんな特技があったのか」「次は城でも作ってみてよ」と声が上がった。友人の驚いた顔がうれしくて、「つまようじ」にはまったという。

次は彦根城、松江城、法隆寺金堂

 自宅を作った後は、彦根城、松江城、法隆寺金堂などに挑戦。全9作品を完成させた。城の図面を手に入れるため、まずは国立国会図書館まで出向く。図面では分からない窓の位置や、石垣の大きさなどは、双眼鏡を片手に現地を何度も訪れて確認したという。

 「城も自宅も、粘り強くつまようじをつなぐ作業がメインです」と佐藤さん。2年かけて今年9月に完成した松江城は、設計図を元に城の東西南北の側面から作っていった。大きさは縦85センチ、横70センチ。約1万5千本のつまようじを使った大作だ。

 佐藤さんが「よく見てほしい」と話すのは、城の屋根の曲線だ。つまようじは少し曲げただけで折れてしまう。試行錯誤のうえ、等間隔に七つの切れ込みを入れると、折れずに曲線を表現できることを発見したという。

9作品で計10万本以上

 これまで作った9作品で、つなぎ合わせたつまようじは計10万本以上。なぜここまで作り上げることができたのか。佐藤さんは、「焦らずじっくり取り組んだからこそ嫌にならずにできました」と話す。

 一日中、自室で作業をすることもあれば、つまようじを1週間以上さわらないこともあった。佐藤さんは「まずはやってみる。そして、ゆっくりでも続けていくといつかは形となる。つまようじから私が学んだことです」。

 佐藤さんの作品を集めた「爪楊枝(つまようじ)工作展」が、竜王町立図書館で開かれている。25日まで。入場無料。火曜休館。問い合わせは図書館(0748・57・8080)へ…

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この記事を書いた人
吉村駿
東京社会部
専門・関心分野
事件・事故、スポーツ、生き物