アンダーヘア、愛を込めてジョリッと 売り上げ10億円、続く快進撃

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今泉奏

 アンダーヘアもきれいに整えたい。そんな思いにこたえようと、7年前に名古屋市のベンチャーが開発した手のひらサイズの商品が、異例のロングセラーになっている。全国のドラッグストアや雑貨店で累計80万個、10億円以上を売り上げた。

 誕生のきっかけは、ある金メダリストだった。

 2012年の夏。テレビではロンドン五輪の体操で金メダルを獲得した内村航平選手の姿が何度も映し出されていた。わき毛を脱毛している欧州の選手と「ありのまま」の内村選手との違いにも注目が集まり、ネットでは議論が白熱していった。

 健康グッズメーカーの「アメイズプラス」を起こして5年目だった山本良磨社長(43)のまわりでも、話題になっていた。

「アンダーヘア、どうしてる?」

 「体毛には文化もあるけど、こんなにも気になるものなのか」。驚きながらも友人たちと「むだ毛論議」を繰り広げるなかで、アンダーヘアの処理に話題が及んだ。

 「蒸れるのが嫌で手入れしている」

 「でも、全部ないのは恥ずかしいな」

 「整えるのも手間がかかって大変だよ」

 話を重ねるうちに、それぞれ自己流で処理していることがわかった。ハサミで整えている人、カミソリでそる人、ライターであぶって切る人……。

 「チクチクせず自然に整えるには、どうしたらいいか。自己流の処理が正しいのか。みんな悩んでいた」

 全部そらずに「ちょっと残し」ができる。そんな商品をつくりたいと思った。

 20代前半の女性社員と2人で開発に取りかかった。当時、会社の主力商品は健康靴や化粧品で、アンダーヘア用の商品をつくった経験はゼロだ。他社にも参考になりそうなものはない。

 開発は難航しそうに思えたが、ヒントはすぐそばにあった。

 休日に美容室を訪れたときのことだ。

 「後ろの髪がチクチクしないように、シャギーカットするね」。美容師はそう言うと毛先にハサミを入れ、細くふわりとなるよう仕上げてくれた。

 《下の毛でも、この角度で刃を入れて切れば、チクチクしなくなるはず》

 すぐに切り方を聞くと、毛先に対して30度の角度でハサミを入れていると教えてくれた。「切るよりそぐという感覚。カミソリだったらできるかも」

 美容師が使うくし状の「すきばさみ」も参考に、アイデアを練った。2枚の薄いプラスチックのくしの間に、カミソリを挟む。くしの歯の根元からカミソリの刃を出す。肌に沿って毛をなでつけたときに、30度の角度で刃が毛先に触れるようにする。

 こうした商品を思い浮かべながら、「くし形のアンダーヘア用カッター」の絵を紙に描いてみた。これをつくるには、刃先の角度の調整といった細かい作業も必要になりそうだ。

 技術力に定評のある国内メーカーに頼むしかない、と思った。

作り直し3回、刃メーカーは「プライドある」

     ◇

 「くし形ヘアカッター」の絵が描かれた発注書が、プラスチック加工が得意な鳥越樹脂工業(愛知県一宮市)に届いた。営業担当の児玉一浩さん(37)は「絶対に売れないと思ったけど、もらえる受注はとらなければという危機感があった」と明かす。

 1984年に創業し、主に大手自動車メーカー向けの部品の試作を請け負ってきた。90年代後半からIT化とコスト削減の流れが強まり、試作の工程が省略されるようになると、同業の倒産が相次いだ。生き残りをかけて、健康グッズの開発にも手を広げ始めたところだった。

 設計を引き受けたのは、当時入社2年目だった大平修史さん(31)。平面の絵からイメージを膨らませて、パソコン上で立体化した。「手になじむように、できるだけ角がなく、丸みを帯びたデザインにした」

 先輩社員と相談しながら、つくり方も考え直した。発注書のつくり方で2枚のプラスチックを固定すると、複雑な加工が必要でコストもかさむ。2枚をかぎ爪のような仕組みで固定することにした。

 1週間で設計を終えて3Dプリンターで造形した。

 大変なのはここからだった…

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この記事を書いた人
今泉奏
ヨハネスブルク支局長|サハラ以南アフリカ担当
専門・関心分野
アフリカ、植民地主義、グローバルサウス