ひとり親、息子の持病…転勤命令は不当か 裁判所がこだわった争点

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内藤尚志
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 ひとり親で持病のある子どもと高齢の母を養う働き手が、引っ越しを伴う転勤を命じられた。子育てや介護に支障が出るから応じられないと拒み続けたら、クビになった。

 「不当だ」と働き手は裁判に訴え、「最大限の配慮をした」と会社側は反論する。おたがいの言い分が真っ向から対立するなか、裁判所が下した判断は――。

 11月29日午後、大阪地裁809号法廷。原告の中正司光幸さん(55)は判決の15分ほど前に着席し、時折目をつぶって気持ちを落ち着かせた。

 大阪府内で10代の息子、70代の母と3人で暮らす。勤めていたNEC子会社を2019年春に懲戒解雇されてから、定職についていない。蓄えを切り崩しながら、自らの裁判と家族のケアに全力を注いできたという。

 息子は頭痛や嘔吐(おうと)の症状が出る自家中毒の持病がある。母も白内障などを患い、体調は万全でない。それなのに転勤を告げられ、応じなかったことを理由にクビにされたのは、違法な「人事権の乱用」だと主張してきた。転勤命令と懲戒解雇を無効にするよう求めていた。

 法廷に3人の裁判官がそろって入ってきた。真ん中に座る中山誠一裁判長が口を開いた。

 「請求をいずれも棄却する」

 中正司さん側の全面敗訴だった。

「十分な説明を行わなかった」

 判決は、息子の病状は点滴治…

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この記事を書いた人
内藤尚志
経済部
専門・関心分野
雇用・労働、企業統治(ガバナンス)、経済政策
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    小室淑恵
    (株式会社ワーク・ライフバランス社長)
    2021年12月3日17時41分 投稿
    【視点】

    1960年代~90年代は働く世代の人口が多く、組織への忠誠心と組織内の同質性を高めるために「出張・転勤・残業」に耐えられる労働者だけを残すべく、ふるいにかけるような手法が効果的だったのは確かだ。今はどうだろうか。労働人口は減っており、その多

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