eスポーツで高齢者を元気に 秋田大院生らが研究進める

井上怜
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 テレビゲームなどのeスポーツで、高齢者の健康寿命を延ばし、コミュニケーションの手段にもできないか――。そんな研究を秋田大大学院の学生らが進めている。

 10月下旬、秋田市内の貸しスペースで、理工学研究科の博士前期課程1年、三浦有沙子(あさこ)さん(24)と菊地亮太さん(23)がデータを収集するため、参加者にeスポーツをプレーしてもらう実験をした。2日間で63~81歳の男性11人、女性5人が参加した。

 使うのはプレイステーション5。カーレースの人気シリーズ「グランツーリスモ」をプレーする。車はホンダ「シビック」で、ゲーム上では時速200キロ以上出る。

 参加者はハンドルとアクセル、ブレーキを操作し、他の車にぶつかったり、スピンしたりしながら3分ほどのコースを走り抜けた。時折「あー」「やばいやばい」と声を上げた。ハンドルの先にはカメラが2台あり、参加者の表情や顔の表面温度を、別の機器で心拍数を測っている。

 その後は、レースの映像を見ながらその時々の感情と、その強さを振り返ってもらう。1位になった時は「うれしいけど、抜かされる恐怖もあった」、スピンした際は「怖かった」。こうした主観的な言葉と客観的なデータを組み合わせ、どんな時にどんな感情が生まれるのかを解析する。実験は昨年にも2回行った。

 認知症予防を目的にeスポーツを始める高齢者も多いという。高齢者が楽しめて使いやすいゲームづくりのために、研究で蓄積したデータをメーカーなどに提供し、活用してもらうことを目指している。また、遠方の人と対戦した際に、お互いの感情や情報を画面越しに共有することで、より密接にコミュニケーションを図れるようにすることも模索している。

 研究は、広く高齢者にeスポーツに親しんでもらうところから始まる。実験に参加した西村修さん(66)は、昨年秋にも協力した。楽しさに目覚め、ゲーム機とソフト、ハンドルやアクセル一式を購入したという。「レースゲームならシニアでもできる。こういうきっかけがあれば、やりたい人は多いはず」と話す。

 「やってみると面白い」と話す大塚春生さん(69)は、東京に住む小学1年の孫とオンラインで将棋をしている。「コロナ禍でなかなか会えないけど、つながることはできる。将棋で負かして、じいちゃんすごいだろと言える」と笑った。

 より専門的な知識を研究に取り入れようと、秋田大は、秋田ケーブルテレビ(CNA)と秋田市のコンサルティング会社「ALL―A」に協力を求めた。共同で研究し、映像撮影の知見、高齢者向けの企画のノウハウなどが提供されている。

 指導にあたる秋田大の景山陽一教授(人間情報工学)は「認知症の予防に効果が期待できるとも言われるし、eスポーツを通じて、高齢化が進む秋田でも気持ちや共感を共有することができる」と意義を強調する。

 昨年度から研究に取り組む三浦さんは「まだ途中段階だけど、楽しかったと言ってもらえるとうれしい。結果をしっかり出したい」、菊地さんは「ゲームが好きなので、その研究で高齢者の方にいい影響を届けて、地元に貢献したい」と意気込む。(井上怜)

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