生きていけるか不安、絶望しか…ロスジェネ・非正規の女性らからの声

真鍋弘樹 寺田実穂子
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 どうすればいいのか。就職氷河期に社会に出たロスジェネ・非正規の女性についてのアンケートには、極めて多くの意見が集まりました。必要な公助を広げるには、声を上げ、政治を動かすことが欠かせません。それは他世代や男性を救うことにもつながるはずです。

社会的な落とし穴 手当てを

 「生きていけるか不安」「絶望しかない」。今回のアンケートはフォーラム面でも群を抜く1172回答が寄せられ、当事者からの声が半数近くに上りました。「安楽死制度」を望む声が複数あったのが衝撃的でした。将来に絶望している人がこれほど多いことに、私たちは気付いていたでしょうか。「きちんと対策を書くべきだ」という親世代からの意見もいただきました。

 一方で「努力が足りない」「当人の選択だ」という声も少数ながらありました。彼女らの苦境は、いわゆる自己責任に帰すべきなのか。

 そうではありません。理由は明確です。日本では新卒一括採用が主流で、社会に出る時の景気が、生涯の雇用を左右する。男女の雇用差別により、女性の非正規率は男性より30ポイントも高く、正規との待遇格差は身分差別的ですらある。さらに社会保障制度は昭和の家族モデルを前提とし、単身者が多い現状に合っていない。ロスジェネ、非正規、女性の三つの輪が重なったところに、いまの日本が抱える最大の問題の一つがあります。社会的に落とし穴が仕掛けられていたといってもいい。

 なぜ、一部の世代を特別扱いするのか。男性も若者も苦しいんだ。そんな声も寄せられました。不安定雇用に苦しむ人たちは、男性や他世代にもいるのは間違いありません。しかし、みんな平等に苦しむことが答えではない。この世代の女性のために社会の変化を促せば、それは他の人々も救うことになります。

 では、どうすればいいのか。アンケートでは、「国などが生活立て直しのための対策をするべきだ」という回答が約45%に上り、「雇用の仕組み全体を見直すべきだ」が32%と続きました。自己責任ではなく、「公助」が必要です。

 二つの「支える手」を考えます。一つ目は、いわば応急措置です。いま痛みを訴える人がいる以上、非正規の待遇改善は急務です。正規雇用化と同時に、最低賃金の引き上げや同一労働同一賃金を進める。

 二つ目は、長期的な手当てです。老後の貧困を防ぐため、社会保障制度を改革する。1回目(10月31日付)で話を聞いた国際医療福祉大学の稲垣誠一教授は、75歳以上向けに「税を財源にする基礎年金」を提案します。これは栗田隆子さんの言うベーシックインカムの高齢者版と言えます。

 この世代には間に合わないかもしれませんが、正社員でなければ様々な優遇から抜け落ちてしまう「メンバーシップ型」と言われる日本型雇用と社会のあり方についても、議論をしていくことが必要です。

 短期、長期どちらの対策も、大椿裕子さんのように声を上げ、政治を動かさなければ実現しません。

 一部の人に不平等を押しつけ続ければ、社会は傷み、持続可能性を損ないます。そして将来世代も同じ道をたどりかねない。この難題はすべての人が当事者であり、ロスジェネ世代は、その先頭走者なのです。真鍋弘樹

就学から公平に お金より孤独が怖い

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部です。その他の回答もhttps://www.asahi.com/opinion/forum/144/で読むことができます。

●「家」単位の社会保障・税制の見直しを 40代女性、シングル子無し、非正規の当事者です。転職の度に必死に仕事を覚え、まじめに働いても契約満了となればまた次の職探し。生活に足るだけの年金ものぞめないのでリタイアなどできず「老後」は無いでしょう。将来世代のためにも第3号被保険者制度に代表されるような「家」を単位とした社会保障および税制度を早急に見直し、非正規雇用のシングルでも不安を感じることなく生きていける制度に改善すべきだ。また、誰もが困った時に申請できるよう生活保護申請の適用条件を下げることも必要。(東京都 40代女性)

介護職賃上げ、ロスジェネ採用を 自分も1994年に新卒だったが介護福祉士という資格で常勤の仕事を得て、今それなりの収入と安定した生活を得ている。正直底辺とも思われている仕事で親にも反対された。国家資格と専門職という手に職を得る道もあるのに仕事をより好みしている人もいるのでは?と思わなくもない。だが、現在の介護職の賃金は以前よりも低いところが多いので、賃金を上げ、ロスジェネを採用して人手不足も解消することはできないだろうか。(埼玉県 50代女性)

●定年後の再雇用で現役世代の採用が増えない 女性もそうだが、実際、今の日本には働き盛り世代でも男性の非正規労働者も増えている。企業側もできる限り、派遣労働者を減らし、直雇用の契約社員を増やせば、少しは労働者の生活が安定するのではないだろうか。他に、定年後の再雇用制度も若年層の雇用に少なからず影響を与えている。自身の職場(大手企業)では定年後も高額報酬で同じポストで再雇用されているケースもあり、現役世代の採用枠が増えない。企業も再雇用制度の運用にあたり、慎重な見直しが必要だ。(神奈川県 40代男性)

●貯金の仕方、教育を 特に単身の女性が困窮すると言っているが、生活が困窮するのは、女性も男性も関係ないと思う。貯金の仕方や経済の仕組みを早くから教えて欲しい。(東京都 10代)

●女性に公平な制度を 女性の社会進出には多くの不公平がつきまとっています。入試で男子学生が優遇されていることは最近明らかになったばかりですが、就職でも女性は不利で、復職も難しい。ロスジェネ世代の現状と将来の問題には公費と制度改革というアプローチを取るほかないと思いますが、それだけでは下の世代の女性たちの問題が解決されません。女性が就学や就業で不公平な扱いを受けないよう、公正な制度を整えることが必要だと思います。(東京都 20代女性)

●当事者の互助サービスを 単身女性同士の互助サービスなどがあれば家賃軽減や生活費軽減になるのではないかな、と思います。私自身は離婚して単身の40代前半、同世代の女性に比べると貯蓄もありますが、ポンとお高い高齢者福祉施設に入れるほどたまるとも思えません。また孤独感を避けるためにも単身向けの互助サービスが増えるとありがたいです。なんなら今でも受けたいです。食費出す代わりに誰かご飯作ってくれて手作りご飯がみんなで食べられる、みたいなサービス。お金より孤独感の方が怖いです。(兵庫県 40代女性)

●雇用主へインセンティブを 非正規でもフルタイムで働けて、それなりの給与を得ていても、いつまで続けられるかわからない、退職金はもらえない、頼れる人がいない、という不安が常にある。能力は評価されているのに、人件費がない、ポストがないなどの理由で正規にはしてもらえない。

 もっと雇用の機会を増やして欲しい。ロスジェネの雇用に対し、雇用主へのインセンティブを付けたり、能力があるのに一定年数を超えても正規になっていない場合にはペナルティーを課したりすると、新たに仕事を探さなくても今働いている職場でのキャリアを継続できる可能性も生まれる。(北海道 40代女性)

●ロスジェネ採用あるけど 企業や自治体が、ポツリポツリと、ロスジェネ対策で採用しだしたが、それはほんの一部の優秀な人材だけ。パフォーマンスにしか捉えられない。このまま、非正規雇用から抜け出せないで、生涯終わってしまうのかなって、最近、よく考えます。ロスジェネ仲間とは、来世に期待だねって、よく話しています。(大阪府 40代女性)

     ◇

 バブル崩壊の1991年に生まれた私にとって、一般的に会社はいつ崩れてもおかしくないもので、一生同じ会社の正社員でいられる保障はないという感覚がある。

 ではバブル崩壊前後に学生だった人たちは? 小さい頃に好景気を見て、社会に出るときに、就職の困難さにぶつかった。就職氷河期前の先輩の就活話を聞いて、「どこの国の話?」と思ったという。ロスジェネ世代の苦悩を知ると、1年の違いで運命が変わってしまう恐ろしさや悔しさを感じた。

 その後は、リーマン・ショック後の就職状況の悪化やコロナ禍でのリモート就活。いつ就活の時期を迎えるかで、大きく様変わりした。私たちは時代の波にさらされている。その声に耳を傾け続けたい。(寺田実穂子)

     ◇

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    長野智子
    (キャスター・ジャーナリスト)
    2021年11月9日9時11分 投稿
    【視点】

    財源が潤沢にあるわけではない中、「18歳以下一律10万円給付」というこの記事にあるような困っている層に届かない政策、富裕層までがさらに潤う政策、世帯主とトラブルになっている妻と子供には届かない政策が進行している政治なのに、与党が圧勝するとい

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