Z世代、本当に政治無関心? 「意識が高いと…」「演説で心動いた」

上保晃平
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 【千葉】Z世代。1990年代後半生まれで、幼いころからインターネットに触れてきた若者を指す。日本では多くが「政治に無関心」とされるZ世代の1票を動かすには何が必要なのか、同世代の記者(22)が県内の大学生と会って考えた。

 「勉強していないと、発言や投票をしてはいけないように感じています」と千葉大4年の張葉月さん(23)。話しぶりは控えめだ。政治思想史を学んでおり、本来関心はあるはずだが、「『意識高い』とは思われたくない」。政治の話題はSNSでは一切発信せず、友達と語り合うことも少ない。

 《記者もよくわかる。学生時代の仲間とは今も政治や社会問題は話しづらい。「意識高い」とは褒め言葉ではなく揶揄(やゆ)する言葉だ。仲間から最も思われたくないことでもある》

 同大2年の下津礼志さん(19)は「身近にコンテンツがあふれていて、わざわざ政治に興味を抱かない」と話した。ネットでは、検索すれば多くの情報が見つかる。しかし、主体的に情報を取りにいく習慣があまりなく、スマホ画面に自動的に表示されるニュースを見ることが多いという。

 学生の意見はなかなか表に出てこない。同大大学院1年の生野克海さん(22)は、大学1年で読んだ米政治哲学者マイケル・サンデル氏の著作「これからの『正義』の話をしよう」に感銘を受け、「弱肉強食」の新自由主義能力主義に疑問を抱くようになった。

 それでも、「意識高い」と見られることには抵抗がある。自らの意見は、SNSで発信はせず、仲のいい友人1人と話す程度だ。

 《学業、サークル活動、飲み会。コロナ禍でキャンパスライフが吹き飛んだのも今の大学生の特徴だ。縁遠いと感じてきた政治に何も思わなかったのか》

 今回初めて投票するつもりだという学生もいた。

 淑徳大4年生の中村翼さん(21)。コロナ禍での対面授業の制限、それでも減額されない授業料。疑問を募らせていたところに、インターネット上で好きな俳優らが投票を呼びかけた動画に背中を押された。

 「今まで政治に不平不満は全然なかったけれど、コロナで考えが変わった」。ただ、投票する上で戸惑いもある。「正直、政党の色や候補者の考えをあまり理解できていない」

 《Z世代はバブル後の「失われた30年」の中を生きてきた。右肩上がりを知らない。そのためか、記者の友人もインフラ系企業の正社員など「安定志向」が多かった》

 淑徳大3年生の森川静穂子さん(21)は小学6年生だった2012年、安倍晋三氏が首相に返り咲いた。「政治といえば安倍政権が当たり前だった」。「ヤジばかりだった」という野党には、SNS上で過剰に批判している人たちと同様、「攻撃的」と距離を置く。

 大学3、4年生は、就職の悩みに直面する時でもある。学生優位の「売り手市場」が続いた安倍政権への不満はなさそうだった。

 経済成長を掲げたアベノミクス政策を多くが漠然と支持しており、同大3年生の斎藤輝(ひかる)さん(21)は「安定感がある自民党を信頼している」と話した。

 《Z世代の共感を生んだ政治家はいないのか》

 同大4年生の岸優斗さん(22)は、「投票に行ったのは(アイドルグループの)AKB48の総選挙くらい」。「たかが自分の1票ではなにも変わらない」と淡々と語った。

 ただ、親がファンで見ていたという野党党首のインターネット上での演説動画を自分も見たときは、「頑張ってほしいなとは思った」。熱弁に少し心を動かされたという。

     ◇

 千葉大の関谷昇教授(政治思想史)の話 若者が政治に無関心というのは事実誤認だ。仲間内で浮きたくないと、考えを表に出して共有しづらい状況にある。若者が望む生き方は多様化している。ただ、インターネットやテレビから得た断片的な情報を「自分事」として消化できていない面もあるのではないか。イデオロギー的な話ではなく、若者が自分事として捉えられるような生活目線の言葉なら届くはずだ。

 淑徳大の矢尾板俊平教授(総合政策論・投票行動)の話 若者の投票率を上げるには①若者向けの政策②気軽に政治の話や投票ができる雰囲気づくり――が重要で、教育現場などでの政治参加体験の積み重ねも必要だ。ボランティア活動や募金活動に参加するなど、若者の社会参加意欲はむしろ高い。若者が投票しやすい環境をつくる責任は大人の側にある。

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この記事を書いた人
上保晃平
立川支局|事件・裁判担当
専門・関心分野
社会保障、障老病異、社会思想