第1回「貧困層が液状化のように」都心の公園、20分で消えた弁当400食

有料記事危機の時代に

五郎丸健一
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 週末の買い物を楽しむ家族や友だち連れ、コスプレイベントに集まった若者らが行き交う東京・池袋のサンシャインシティ。そのわきにある東池袋中央公園は、ここだけが別世界のようだった。

 9月下旬の昼下がり、人々が「ソーシャルディスタンス」で2メートルほど間を空けて列に並びだした。高齢の男性が多いが、中年の男女も目につき、中にはスマホをいじりながら待つ若者の姿も。日が落ちるころには、広い公園を埋める長蛇の列となった。

 彼らの目当ては、無料でもらえる弁当だ。生活に困る人を支援するNPO法人「TENOHASI」が、炊き出しや生活相談を月2回おこなっている。ここに集まる人たちは、どんな事情を抱えているのか。

 妻と一緒に列に並ぶ男性(54)は、ホテルの従業員。コロナ禍の影響で仕事がなくなった。会社は休業手当を出さず、収入が減った。妻は飲食店におしぼりを納入する会社でパートで働いていたが、その仕事も失った。今年2月ごろ、炊き出しのことをテレビで知り、訪れるようになった。

 最近はホテルの仕事が徐々に戻ってきたものの、勤務は週3日で、生活は苦しいという。「並ぶのは正直、恥ずかしさもあるけど、こういう場があるのは本当にありがたい」

 若い人にも話を聞いた。

 並ぶのは3回目という男性(32)は、派遣会社に登録し、ネット通販大手の倉庫で商品の棚出しの仕事をしていた。ところが、今年夏、雇い止めに遭った。ハローワークにも通ったが、コロナ禍以来の就職難で厳しい現実に直面した。興味を持った病院の清掃の仕事は、3人の求人に40人の応募があり、あきらめた。

 友人の家に居候し、冷凍食品の配送など日雇いの仕事で食いつなぐ日々だ。今の月収は7万円ほど。「収入を計算できる仕事を早く見つけて、炊き出しに頼らなくてもいい生活に早く戻りたい。今はとにかく粘るしかないですよ」

 ほかの人たちも、事情はさまざまだった。生活保護を受けているが、障害の加算分を減らされ、生活がいっそう苦しくなった人、専業主婦だったが、家で「いろいろあって」路頭に迷った女性……。よい仕事が見つからないという声も多く聞いた。

 午後6時、弁当の配布が始まると、並んだ人たちは次々と受け取り、どこかへと消えていく。用意された400食は20分ほどでなくなった。

 この日、炊き出しや生活相談に集まったのは416人。コロナ危機が本格化した昨年春以降は200人台が多かったが、今年に入って急増し、最近は300人台が続いていた。今回400人を超えたのは、リーマン・ショック後の2009年以来。最近は20~30代が増え、コロナ以前はほぼ皆無だった女性も来るのが特徴だという。

 貧困の現場を長年見てきたTENOHASIの清野(せいの)賢司・事務局長(60)の表情には、危機感がにじむ。

 「コロナでぐらぐら揺れて、液状化現象のように貧困層が表面に出てきた。非正規雇用で、もともと弱い立場にいた人が失業保険や行政の給付金でもしのぎきれなくなり、真っ逆さまに落ちている。困窮する人に手を差し伸べるというメッセージを、今こそ国が発してほしい」

コロナ禍はこの国の医療態勢や安全綱のほころび、経済格差をあらわにし、所得の再分配といった政府の役割の大きさを改めて人々に認識させました。本当に困っている人を支えるために、限られたお金をどう使うか。必要な財源をどう確保するか。衆院選での選択は社会のありようを大きく左右します。記事の後半では、公助をめぐる日本の現状と進むべき方向性について考えます。

「国の仕組みがきちんとしていない」 2児のシングルマザー

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2021年10月18日11時31分 投稿
    【視点】

    非常に読み応えのある記事で、コロナによる格差の拡大と緊急支援を求める人への対策、そして中長期的に見た場合の「自助・共助・公助」のあり方はどういうことなのか、考えさせられました。 記事冒頭にあるように、コロナによる飲食・宿泊などサービス業は

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