なぜ、今ヤクザ映画か 東映「孤狼の血」続編から考える

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土井恵里奈
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 おかえり、ヤクザ映画――。というと怒られるだろうか。かつて一時代を築いたアウトローたちが、東映の銀幕に帰ってきた。

 「全員ブタ箱たたき込んじゃる」「地獄見せちゃるけえ」「おどりゃ、血も涙もないんかっ!」

 物騒なセリフが飛び交い、恫喝(どうかつ)に脅迫、だまし合い、果ては指詰め、殺し合い――。公開中の映画「孤狼(ころう)の血 LEVEL2」は、広島を舞台に、警察とヤクザの抗争を描くバトルロイヤル。スパイや新聞記者までもが入り乱れ、暴れまくる。当然、15歳未満お断りのR指定だ。

「孤狼の血 LEVEL2」 原作は柚月裕子の同名小説シリーズ。前作は役所広司主演で、日本アカデミー賞12部門など30を超える映画賞を獲得した。オリジナル脚本となる今作は、狂騒の広島を舞台に、前作よりさらに激しいバイオレンスシーンが続く139分。刑事の日岡(松坂桃李)とヤクザの組長上林(鈴木亮平)の死闘、スパイ役の近田(村上虹郎)との絆を軸に、警察と裏社会の関係を描く。同じく東映の極妻シリーズでおなじみのかたせ梨乃は、今作でも極道の妻を演じた。

 2018年公開の「孤狼の血」(原作は柚月裕子の同名小説)の続編で、池上純哉の脚本となる。主演は所轄署の暴力団捜査担当、通称マル暴刑事役の松坂桃李(とおり)、ヤクザの組長役に鈴木亮平。人気、実力ともにエース級の俳優をそろえた。メガホンをとったのは白石和彌監督。ピンク映画の巨匠若松孝二監督に師事し、「凶悪」「日本で一番悪い奴(やつ)ら」など話題作を世に放ってきた鬼才だ。

 なぜ、いまヤクザ映画なのか。

ヤクザ映画は当たるのか当たらないのか 東映プロデューサーに聞く

「孤狼の血」シリーズの映画化を企画した仕掛け人が明かす、上映までの舞台裏です。

高倉健菅原文太松方弘樹らスター輩出

 かつて、東映の屋台骨を支えたのはこの路線だった。1960年代の「博徒」といった任俠(にんきょう)ものをはじめ、70年代には「仁義なき戦い」「山口組三代目」シリーズが大当たり。法にあらがう男たちの姿をリアルに描き、「面白さは一級の娯楽作」などと評された。高倉健、菅原文太、松方弘樹ら今は亡きスターが輝いたのもこのころだ。

 しかし時代は変わった。人気は下火になり、制作そのものも激減。Vシネマへと移行するが、それも頭打ちで、すたれていった。「時代に取り残されただけではない。映画としてのクオリティーを担保できず、安かろう、悪かろうでおもろい作品を作れなくなっていた」と企画・プロデュースした紀伊宗之さんはいう。

企画書に「ヤクザ映画は当たりません」と書いた

 今回の映画化の企画書にも、「ヤクザ映画は今、当たりません」と紀伊さん自ら書いたくらいだ。

 「昔のヤクザ映画は、本物と飲みながら作られていた」と白石監督はいう。「あのときのカチコミ(殴り込み)どうでしたか」「刑務所はどんな生活ですか」。脚本も役作りも、実際に取材して練り上げていたという。

 「仁義なき戦い」シリーズなど数多くの東映ヤクザ映画の脚本を手がけた笠原和夫は、「やくざ映画の場合、親分連中と呑(の)みに行って、『あのポリ公のケツ蹴り上げてやった』とか好き勝手なことを聞くのが一番の取材だ」(「映画はやくざなり」)と語っている。「その土地の空気を吸うだけで書くものが違ってくる」らしい。

 ヤクザが撮影の見学に来ることもあり、彼らがロケ地の交通整理までしていたなんていう、笑うに笑えない話もある。現実と虚構のごった煮の中で、迫力ある作品は生まれていった。

 だがいま、ヤクザにスポットを当てることは逆風でしかない。暴力団対策法が1992年に施行され、企業のコンプライアンスも厳しくなった。もちろん暴対法があろうがなかろうが、役者とヤクザを会わせることなどあり得ず、過去の映像作品を見て勉強してもらうようになっている。「時代劇の作り方になりつつあります」(白石監督)。

 撮るのも簡単ではない。まずロケ地を探すのが難しい。血で血を洗う抗争映画はハイリスク案件となるためだ。

 本作のロケ地となった広島の反応も、当初は厳しかった。言わずと知れた「仁義なきシリーズ」の舞台とはいえ、はるか昔の昭和の話。「今はもうヤクザな街じゃないんで」と観光関係者らからはネガティブな声が相次ぎ、撮影交渉は難航した。

 だが東映は引き下がらなかった。

記事後半では、難航した映画がどのように実現していったかに迫ります。芸人「見取り図」の大人気ネタ「南大阪のカスカップル」も登場します。

 企画した紀伊さんは、「ヤク…

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